私立両梅学園~ドキドキ★恋の大波乱~
※GL・BL要素有り。オタク・腐女子用語満載。
――――私立両梅学園高等部。
文武両道を謳い、生徒も教師も優秀な人材が集うこの学園には、今日も恋の嵐が咲き乱れる――――
そんなありきたりなキャッチフレーズの、でも内容はちょっと変わった恋愛シミュレーションゲームがあります。
その名も『私立両梅学園~ドキドキ★恋の大波乱~』。
このゲームが何故“ちょっと変わっている”のかというと、恋愛の攻略対象キャラにある。
ゲームの主人公が入学したこの年、元々別れていた男子部と女子部を統合し、晴れて共学になった入学式から始まる。
当然、男子部と女子部二つ存在した生徒会が統合され、同じ役職の人間が男女二人いる状態。
つまり、生徒会も二人なら副会長も会計も書記も庶務も皆男女それぞれにいるのだ。
で、その生徒会を中心とした攻略対象は――――その中の全員。
大事な事なので繰り返す。生徒会の全員だ。
そもそもこの恋愛ゲーム、Girl's SideとBoy's Sideの二本が有り、Girl's Sideは女主人公、Boy's Sideは男主人公でシナリオが進んでいく。
Girl's Sideは普通の乙女ゲームと女同士のGLゲームの両方を楽しめ、Boy's Sideは普通のギャルゲーと男同士のBLゲームを楽しめるという、混沌っぷりが特徴のこのゲーム。
このゲームが発売された当初、某巨大掲示板に“普通にギャルゲーをやっていたハズなのに、いつの間にかBLゲームになっていたでござる”等のスレッドが乱立し、一種の祭り状態になった。
乙女ゲー好きの百合嫌いと、ギャルゲー好きのBL嫌いの者達――逆もまた然り――にとっては、正に罰ゲーム状態。
有名イラストレーターのキャラデザで超美麗グラフィック、男女共に超豪華声優陣のフルボイスでシナリオもそこそこってのが、また性質が悪い。
祭り状態で話題になり、予想より遥かに売れたこのゲーム。完全ネタゲーとして扱う者や、ファンの声優の為に罰ゲーム状態でやっていく内に、新たな世界の扉を開いた者もいる。
何故私が、いきなりこんな特殊なゲームの説明をしているのかっていうと――――
気が付いたら、Girl's Sideの女主人公になってたんだよおおおおおおおぉぉぉ!!!!
楽しいオタク生活を送っていたある日、気が付けば私立両梅学園高等部の入学式。どうしてこうなった。
なんか、バスの事故かなんかに巻き込まれた記憶が薄っすらとあるんだけど………私、死んだの?
もっとこうさぁ……主人公の友達とか全然ストーリーに関係ないその辺のモブとか、色々あるだろうが!
むしろ、最近のネット小説とかでは“恋愛ゲームの主人公の友達に転生or憑依しちゃったけど、関わりたく無いので生暖かくヲチしてます”が主流じゃないの?
何故、よりによってこのゲームの女主人公。
リアルで百合は無理。本当無理っ!
そりゃあ二次とか妄想だったら、GLもBLも普通にイケる口ですよ?
このゲームのGirl's SideもBoy's Sideも、両方共がっつり楽しみましたとも。
ただ現実で自分に降りかかってくるとなると、話は違う。ちょっと腐り気味のモテないオタク女子高生ですが、性癖はいたってノーマルです。
百合は嫌ー!無理無理無理無理!
この学園に入学して――この世界にトリップ(?)して――、まだ一週間だけど………どうすんの、コレ。どうすりゃ良いの。
有り難い事に、フラグはまだ立ってない。というか、必死に回避してます。
でも、そろそろ限界。強制イベント発生しそう。
男キャラとの恋愛フラグ立てて、普通に乙女ゲームを楽しめば良いのかもしれないけど、下手に突付くと百合フラグも簡単に立っちゃうんだよねぇ……。
後、男キャラのフラグ立てると、各キャラのファンクラブが敵に回って苛めらるという、まぁ……王道展開になる。
それにきっと、砂糖菓子に更に蜂蜜かけたような男キャラ達の甘い台詞に耐えられない。
ゲームでさえ爆笑して身悶えながら、ヒィヒィやったもの。
アレをリアルでやられたら………想像したくないな。無理、マジ無理。
あ、でも男主人公になるよりマシか。
Girl's Sideで優しくて甘ったるい台詞吐いてた男キャラが、Boy's SideのBL展開では一転強引鬼畜キャラになってたりして、かなりハードだ。
お前、キャラ変わってんだろって突っ込みたくなるけど、乙女ゲーム展開でもちょっとその片鱗を匂わせているシーンもあるので、本性を隠しているだけだろう。
まぁ、百合展開も同じくギャルゲー展開とはまたキャラ違ってハードなんだけどね、BL展開よりはかなりソフト。でもなるべくなら避けたい。
ギリギリまでフラグを避けて、強制イベントになったら癒し系の女キャラとの友情ENDに持っていくべきか。
―――……っていうか、この世界に終わりあるの?
そういや続編もあったし……これからどうなるんだろう。ループとか嫌だよ?
マジお家帰りたい。
ってワケで、どこかに世界の綻び的な出口が無いか、フラグ立てるのに気を付けつつ学園を探索中です。
そんな出口無さそうだけどねー、何もしないよりは精神的に楽だから。
学園の内部構造を熟知していれば、いざという時に逃げられるし。
(この辺は―――……各教科の資料室とかか)
ふむ、主に密室イベントが発生するエリアですな。
人の気配に気を付けつつ、先に進む。
密室イベントは好感度が上がった中盤から終盤辺りに起きるので、まだまだ序盤の今は逆に安全地帯かもしれない。
一つ一つ確認していくと、奥の古典関係の資料室から何やら人の気配がした。
資料室からは、誰かのすすり泣く様な声が微かに漏れ聞こえてくる。
フラグ回避で速攻逃げれば良いんだろうけど、この部屋でイベントは起きないハズだし……と、恐いもの見たさで扉に近づく。
そろりと中を覗くと、ありえない人物がそこにいた。
(………嘘、男主人公じゃん)
Boy's Sideの男主人公が一人、資料室の片隅で膝を抱えてすすり泣いている。
これは、どういう事だろう。
Girl's SideにもBoy's Sideにも主人公は一人で住み別けてて、決してGirl's Sideで男主人公は出て来ないのに。
男主人公は泣きながら、なにやらブツブツと呟いている。
とりあえず耳を澄ますと、ありえない台詞が飛び込んできた。
「ホモは嫌、ホモは嫌ぁ……無理無理無理ムリ」
その台詞を聞いた瞬間、思わず資料室に飛び込んだ。
突然の闖入者に「ぅひぎょわっ!」と、変なリアクションをする男主人公の顔は、マジビビリしてはいるが紛れも無い美少年。
男共にまで尻を狙われるだけある、正統派の受け顔だ。
勿論今の私の姿も、百合スチルにも耐えられる、ツインテールの妹系美少女。こんな状況じゃなきゃ嬉しいメタモルフォーゼなのに。
「え………あれ、何で女主人公が?!」
男主人公が、私の顔を見て混乱している。
やっぱり、コイツも私と同じトリップ(?)しちゃった人か。
「こんにちは、男主人公さん。多分貴方と同じ状況の女主人公です」
「え、………え?ええええええええ?!!!」
「煩い、騒ぐな」
誰かに気付かれたらどうすると、男主人公を黙らせる。
幸い人気の無いエリアなので、誰にも気付かれなかった様だ。
パニックになっていた男主人公がなんとか落ち着き、お互いの状況を確認すると、やっぱりトリップした同士でした。
中身男で、ギャルゲー・百合ゲー好きのオタク大学生らしい。当然、『私立両梅学園~ドキドキ★恋の大波乱~』のGirl's Side・Boy's Sideもプレイ済み。
そしてなんと、私と同じくバスの事故かなんかに巻き込まれた記憶が薄っすらとあるらしい。もしかしたら、同じバス事故だったのかもしれない。
「トリップひゃっほうと思って、早速女生徒会長フラグ立てようとしたら、男生徒会長のフラグが立ったった……」
「馬鹿ですか?」
女生徒会長は爆乳金髪の高飛車ツンデレお嬢様キャラで、男生徒会長はクール俺様な黒髪眼鏡キャラ。
ちなみにこの男生徒会長、BL展開だと鬼畜眼鏡になる。
生徒会役員のどちらかのフラグを立てようとしたら、もう片方のフラグも簡単に立つので、要注意だ。
気軽にゲームを楽しむだけなら、二股・三股プレイ余裕なシステムなんですけどね。私も、最高で八股ビッチプレイを楽しんだわ。
「だって、茉莉花さんは俺の嫁……」
駄目だコイツ、早く何とかしないと……。
「鬼畜眼鏡会長に、監禁プレイされてしまえ」
「ホモは嫌ぁ!本っ当無理だからっ!」
男主人公が泣きついてくるけど、あーはいはいと軽くあしらう。
気持ちはよく解かるが、自業自得だろ。まったく同情出来ないよ。
まだまだ不確定要素の多いこの世界。
一人より二人と、フラグ回避・ゲーム世界脱出同盟を組んだけど、超不安。
未知数な世界で仲間が出来て、心強くもあるんだけど、余計な足手纏いも増えた気もする。
とりあえず当面の目標は、フラグ・イベント全力回避です。
この先、本当にどうなるんだろう?