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私の執事。

掲載日:2026/06/22

私の執事が消えた。


もう二度と、彼に会うことは出来ないのだろうか。


私は、とても、とても、淋しい。


‐‐‐‐‐‐


今まで、あれほどの素晴らしい仕事をしている人を、私は見たことがない。


優雅な動き。


丁寧なお辞儀。


ゆったりと、しかし、無駄のない動き。


クルクルと滑らからに回す腕。


私だけではない。


おそらく、そのスーパーを利用する、かなり多くの運転手が彼の動きに魅了されていたはずだ。



彼がしていたのは、ただの誘導ではない。


暖かい「いらっしゃいませ」と、


感謝の「お気をつけて」が、


彼の身体の全てから発せられていた。



「今すぐにでも、サスペンスのドラマに出れるよね?」



助手席に乗った私は、運転する夫に、よくそう言ったものだ。



「あー、見ていて気持ちが良いほどの執事っぷりだわ。ほんと気分が良くなる。」



横目で、何度も彼の名前を確認しようとしたが、いつもベストに挟まれて見えなかった。


そういう秘密主義な所も、また、いい。


余計な情報は与えない。


素晴らしいじゃないか。



そんな執事が、消えた。


おそらく5年以上は、このスーパーの出入り口で、彼は美しい所作を披露してくれていた。


それが悪天候であっても。


透明なカッパを着て、時には、扇風機付きの長袖のジャンパーを背負って。


季節によって、肌の色は変わっていて。


それが、いなくなって、もう2ヶ月は経とうとしている。


どうしたのだろうか。


暑さ寒さに厳しい仕事だから、体調を崩してしまったのだろうか。


心配が募る。



しかし、彼は、現れない。



今、目の前にいるのは、ハラハラドキドキ、私達を誘い出す誘導員。



あぁ、あの日々は、夢だったのではないか。



彼の誘導には、確実さがあった。


信頼があった。


お互いの尊敬があった。


ただのスーパーという場所に、潤いを与えてくれた人だった。


願わくば、今もどこかで、誰かの心を癒やしていてほしい。


彼自身の、心も。



ありがとう。



そして、さようなら、皆の執事。

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