私の執事。
私の執事が消えた。
もう二度と、彼に会うことは出来ないのだろうか。
私は、とても、とても、淋しい。
‐‐‐‐‐‐
今まで、あれほどの素晴らしい仕事をしている人を、私は見たことがない。
優雅な動き。
丁寧なお辞儀。
ゆったりと、しかし、無駄のない動き。
クルクルと滑らからに回す腕。
私だけではない。
おそらく、そのスーパーを利用する、かなり多くの運転手が彼の動きに魅了されていたはずだ。
彼がしていたのは、ただの誘導ではない。
暖かい「いらっしゃいませ」と、
感謝の「お気をつけて」が、
彼の身体の全てから発せられていた。
「今すぐにでも、サスペンスのドラマに出れるよね?」
助手席に乗った私は、運転する夫に、よくそう言ったものだ。
「あー、見ていて気持ちが良いほどの執事っぷりだわ。ほんと気分が良くなる。」
横目で、何度も彼の名前を確認しようとしたが、いつもベストに挟まれて見えなかった。
そういう秘密主義な所も、また、いい。
余計な情報は与えない。
素晴らしいじゃないか。
そんな執事が、消えた。
おそらく5年以上は、このスーパーの出入り口で、彼は美しい所作を披露してくれていた。
それが悪天候であっても。
透明なカッパを着て、時には、扇風機付きの長袖のジャンパーを背負って。
季節によって、肌の色は変わっていて。
それが、いなくなって、もう2ヶ月は経とうとしている。
どうしたのだろうか。
暑さ寒さに厳しい仕事だから、体調を崩してしまったのだろうか。
心配が募る。
しかし、彼は、現れない。
今、目の前にいるのは、ハラハラドキドキ、私達を誘い出す誘導員。
あぁ、あの日々は、夢だったのではないか。
彼の誘導には、確実さがあった。
信頼があった。
お互いの尊敬があった。
ただのスーパーという場所に、潤いを与えてくれた人だった。
願わくば、今もどこかで、誰かの心を癒やしていてほしい。
彼自身の、心も。
ありがとう。
そして、さようなら、皆の執事。




