9話
猫にご飯をやったあの日で、朝倉との関わりはひとまず終わるものだと思っていた。
校舎裏で顔を合わせたとしても、せいぜい猫のことを少し話すくらいだろうし、それ以上の何かが増えるとは考えていなかった。実際、あそこに行く頻度なんて多くて週に一度あるかないかで、そういう意味では接点と呼べるほどのものでもない。
ただ、実際に増えたのは別の場所だった。
放課後の図書室で、朝倉が僕を見つけて声をかけてくるようになった。ほんの二、三分で終わる日もあれば、気づけば帰る時間までそのまま話していた日もある。校舎裏で会う回数より、図書室で並んでいた時間のほうが、たぶんずっと多かった。
それを何と呼べばいいのかは、今でもよく分からない。
友達というには少し輪郭が曖昧で、ただのクラスメイトと言い切るには、放課後に話す時間が少し長すぎた。どちらでもあるようで、どちらでもない。そんな中途半端なまま話が進んで、気づけば僕は土曜の駅前に立っていた。
待ち合わせ場所の案内板の横で時間を確認する。
少し早く着きすぎた気もしたけれど、今さらどこかへ移動するのも落ち着かない。そのまま人の流れを見ていた。自分から来るつもりだったのか、あの場の勢いのまま断り損ねただけなのか、正直よく分からない。ただ、来なかったら少しへこむと言われて、その言葉が面倒なくらい残ったのは事実だった。
来なければよかったのかもしれない。
でも、結局来ているのだから、その程度には効いたのだろう。
約束の時間ちょうどに、朝倉が見えた。
人の間を抜けながらこちらを見つけて、すぐに笑う。そのまま片手を上げて、ためらいなく振ってきた。見つけた相手のところへ真っすぐ向かってくる感じが、いかにも朝倉らしかった。
制服じゃない朝倉は、少しだけ見え方が違った。
淡い色のトップスに細めのボトム。足元は白いスニーカーで、肩に小さめのバッグを掛けている。特別派手な格好ではないのに、人の多い駅前でもきちんと目に入る。少し明るい茶色の髪も、いつも通り少しだけラフで、きっちり作り込みすぎていない感じがそのままだった。
「おはよー。まさかほんとに来るとは思わなかった」
会ってすぐ、それだった。
「来ないとへこむって言ったの、そっちじゃん」
「言ったけど、あれそんなに効くんだって思って」
「言い方が失礼だね」
「でも来てるし」
朝倉は笑った。
その笑い方で、待ち合わせ特有の少し変な間は先に消えた。
気まずさというほどではないけれど、会ってすぐ何を話せばいいのか少し迷う、ああいう時間がある前に、朝倉のほうが勝手に壊してくれた感じだった。
「それで、今日は何するの」
僕がそう聞くと、朝倉は当然みたいな顔で駅前の先を指した。
「この駅で行くとこなんて一個でしょ。あっちのモール行こ」
「ざっくりしてるね」
「分かりやすいほうがいいじゃん」
それで話は決まったらしかった。
駅前を抜けて歩く。モールまでは数分だった。週末の空気は少し明るくて、人も多い。学校の外で朝倉と並んで歩いていることを、いちいち意識しないようにしていたけれど、意識しないようにしている時点で、たぶん少し意識していたのだと思う。
隣にいる、ということだけは、横を見なくても分かった。
自動ドアが開いて、冷えた空気が外へ流れてくる。
中へ入ると、朝倉は案内板を一度だけ見上げて、すぐに歩き出した。迷っているようには見えないのに、どこか明確な目的地があるようにも見えない。そういう歩き方だった。
「で、何見に来たの」
中に入ってから聞くと、朝倉はこっちを見た。
「え?」
「いや、何かあるんでしょ」
「別にないよ」
思ったよりあっさり返ってきた。
「じゃあ来た意味は」
「モールに来ること」
「そのままだな」
朝倉は少しも悪びれずに肩をすくめた。
「そんなもんでしょ」
呆れるくらい無計画だった。
でも、だらしない感じはしなかった。たぶん朝倉の中では、誰かと出かける理由なんてその程度で足りるのだろう。どこへ行くかを先に厳密に決めるより、一緒にいることのほうが先にある。そういう考え方なのかもしれない。
僕にはあまりない発想だった。
僕なら、目的のない外出は少し落ち着かない。何をするのか決まっていないと、時間の置き方に困る。けれど朝倉は、そのへんをまるで気にしていないように見えた。むしろ、決まっていないこと自体を面倒だと思っていない顔だった。
「とりあえず店見よーよ」
そう言って、朝倉は近くの店のほうへ先に向かった。
僕は一歩遅れて、そのあとを追った。
お読みいただきありがとうございます。
この辺りは、大分ChatGPTがこなれてきたのか修正とかリトライとかも何もあなくそのまま行く事がほとんどです。1話目くらいかもです。色々したのわ。
ただ、やはりプロの作家が書く、小説を読むとキャラクターの解像度の差がすごいあるな~と感じるこの頃です。
流石プロだなと思うところです。




