8話
「どうしたの?」
朝倉が顔を上げた。
昨日みたいな気まずさはなかった。
ただ、純粋に不思議そうだった。猫の横にしゃがんだまま、手にした袋を少し持ち上げて、僕を見ている。変に構えているのはたぶん僕のほうで、それは自分でも分かった。
「いや」
それだけ言って、鞄に手を入れた。
ここまで来ておいて、何も出さないほうがおかしい。
指先に当たった小さな缶をつかんで、そのまま朝倉のほうへ差し出す。
「これ」
朝倉が目を落とす。
昨日買った猫缶を見て、それからもう一度僕を見た。
「え、なにこれ」
「食べるかなと思って」
言ってから、自分でも雑だと思った。
説明としてはだいぶ足りない。でも、それ以上うまく言えそうにもなかった。自分でも持ってきた理由がよくわかっていない。
朝倉はほんの少しだけ目を丸くした。
一瞬だけ意外そうな顔をして、それからやわらかく笑う。
「ありがとう」
受け取る手つきは素直だった。
「優しいね」
そう言いながら缶を開ける。
小さな音がして、猫がすぐに反応した。朝倉は慣れた様子で中身を出して、フェンス際に置く。猫は迷いなく近づいて、顔を寄せた。
その様子を見ているうちに、さっきまでの変な緊張が少しだけ薄れた。
僕はもう役目を終えた気がして、半歩だけ引いた。
「じゃあ」
「え、行くの?」
朝倉が振り返る。
「せめて食べてるとこくらい見ていきなよ」
強く引き止める感じではなかった。
ただ、そのまま帰るほうが少し不自然なくらいの調子で言われた。
僕は少しだけ黙って、それから猫のほうへ視線を落とした。
「……そう」
「うん」
朝倉が隣を軽く空ける。
断るほどでもなくて、押し切られるみたいにその場に座った。
二人で並んで、猫が食べるのを見下ろす。
「かわいいよね」
朝倉が小さく言う。
「うん」
「猫好きなの?」
「嫌いじゃない」
「それ、好きな人の言い方だよ」
朝倉は笑っていた。
僕も猫のほうを見る。話題の中心が猫でいてくれるほうが、そのぶん楽だった。
少しして、朝倉が思い出したように言った。
「そういえばさ、水野に不思議がられなかった?」
僕はそちらを見た。
「……なんで水野」
「よく一緒にいるじゃん」
自然な言い方だった。
その自然さが、少しだけ落ち着かなかった。
朝倉が僕のことを思っていたより見ていたみたいで。でも、それをわざわざ確かめるのも変な気がして、僕はそのまま視線を戻した。
「一応、聞かれた」
「なんて言ったの?」
「図書室」
朝倉が一拍止まる。
それから、少しだけ肩を揺らした。
「鞄持って?」
「……それ、水野にも言われた」
今度は声を抑えて笑った。
猫を驚かせないようにしているのか、笑い方まで少し小さい。
「だよね」
「放課後なら図書室に行くこともあるし、別に違和感ないかなとは思ったんだけど」
言いながら、自分でも無理があると分かった。
朝倉は「ふうん」と一度だけうなずいた。
「そっか」
それから少し間を置いて、口元をゆるめる。
「でも、ちょっと無理あるね」
「……そうだね」
責める感じではなかった。
だから言い返す気にもならなかったし、その程度の笑い方で済ませてもらえるほうが助かった。
僕は猫のほうを見るふりをして、話を切ろうとした。
「別に、僕の話はいいでしょ」
「ごめんごめん」
朝倉はすぐにそう言った。
けれど、まだ少し笑っていた。
「ただ、ほんと急に来たからびっくりした」
「でも、橘が優しい人なんだって知れてよかった」
僕は返事をしなかった。
返せなかった、のほうが近いかもしれない。
猫缶を差し出したときより、その一言のほうがずっと扱いに困った。朝倉はそれ以上何も足さず、また猫へ視線を戻した。
遠くで昼休みの音がしている。
ここは静かなのに、学校の中にいることだけは分かる。
その中で、猫はしばらくして食べ終わった。空になった缶が足元に残る。僕はそれを拾って、鞄に入れた。
「じゃあ、僕はもう行く」
「うん」
朝倉がこっちを見る。
「ありがとう。私もすぐ戻る」
僕は立ち上がった。
朝倉は引き止めなかった。
また猫のほうへ手を伸ばして、そのまま自然にそこへ残る。僕もそれ以上は何も言わず、校舎裏を離れた。
来たときよりは、少し歩きやすかった。
何かが解決したわけではない。
ただ、来る前よりは余計な力が抜けていた。たぶん、缶を渡すという目的だけは終わったからだと思う。
それでも、さっきの言葉だけを考える。
優しい人なんだって知れてよかった。
ああいう言葉は、言った側より言われた側のほうが困るのかもしれないと思った。
僕は歩きながら、そんなことを考えていた。
これもすぐできたやつです。多分15分くらいですかね?
文章だけなら5分程度です。
ちなみに、この文章を作る為に、プロンプトの文字は8600文字言ってます笑




