5話
それでようやく、朝倉が顔を上げた。
「あ……」
小さく声が漏れた。
朝倉はしゃがんだまま固まった。
猫に向けていたやわらかい顔が、そのまま途中で止まったみたいになっていた。見られたくないところを見られた、と顔に書いてあった。頬が少しずつ赤くなるのも分かった。
僕もその場で止まった。
間に猫がいる。
本当にいるだけなのに、妙にちょうどいい位置にいた。
朝倉はご飯の袋を持ったまま、少しだけ視線を泳がせた。何か言おうとして、でもすぐにはまとまらなかったらしい。結局、あまり取り繕えていない顔のままで言った。
「……見てた?」
「うん」
ここでごまかすのも変だった。
というか、今さらごまかせる感じでもなかった。
朝倉は片手で額を押さえた。
「最悪だ。」
小さく言って、肩を落とす。
足元で猫が少し動いたけれど、朝倉はそっちを見なかった。今はたぶん猫より僕のほうが厄介だったのだと思う。
「イメージ崩れるよ、こういうの」
冗談みたいな口調だった。
でも、完全に冗談でもなかった。半分くらいは本気で困っているのが分かった。
「ごめん」
とりあえずそう言うと、朝倉は顔を上げた。
「いや、別に橘が悪いわけじゃないけど」
言ってから、少しだけ笑った。
「なんか、タイミング悪すぎない?」
「それはそうかも」
「認めるんだ」
「否定しにくいし」
朝倉の口元が少しゆるんだ。
さっきまでの気まずさが、ほんの少しだけほどける。
それから朝倉は、改めて僕を見た。
「ていうか橘、何してんの」
「遅刻」
「へえ」
「へえ、ではないけど」
「サボり?」
「遅刻」
「今ここで立ち話してるのは?」
そう言われると、少し考える必要があった。
「……それは、サボりかも」
朝倉が吹き出した。
声を殺して笑うから、肩だけが小さく揺れる。
その笑い方で、さっきまでの変な空気がかなり消えた。
「なにそれ」
「朝倉のせい」
「ひど。私、猫にごはんあげてただけなんだけど」
「それは見た」
「うわ、そこは見てたんだ」
見てたんだ、ではなく、最初に見たのはそこなのだけれど、さすがに言わなかった。
朝倉はもう一度だけ額を押さえて、諦めたみたいに息をついた。
「まあ、もういいや」
そう言って、猫のほうへ手を戻す。
袋を軽く揺らすと、足元にいた猫が少し寄ってきた。朝倉はその頭を指先で一回だけ撫でて、それから僕を見上げた。
「内緒だよ」
軽く言った。
責めている感じではなかった。
忘れてほしいというより、むしろ知ったままでいろと言われた感じに近かった。うまく言えないけれど、見てしまったことは仕方がないし諦めたのだろう。
僕はうなずいた。
「言わない」
「よし」
朝倉は満足そうに笑った。
さっきまで恥ずかしがっていた顔のままなのに、その笑い方だけはだいぶいつも通りだった。
僕は鞄を持ち直した。
「じゃあ、僕は行く」
「うん。私はもうちょっとしてから」
朝倉は猫を見ながら言った。
「適当に遅れて入る」
「堂々としてるね」
「橘にだけは言われたくない」
それだけ返して、朝倉はまた猫のほうに視線を落とした。
僕はその横を通り過ぎた。
追い越して、背中を向けて、しばらく歩く。
それだけのことなのに、さっきの「内緒だよ」だけが妙に残った。
大したことではないと思う。
猫にご飯をやっているところを見た。ただそれだけだ。誰かに話すようなことでもないし、特別な秘密というほどでもない。
でも、その日から教室で朝倉を見るたびに、僕は少しだけ引っかかるようになった。
あの校舎裏にいた朝倉を、僕は知っている。
みんなが見ている朝倉とは少し違う顔を、たまたま僕だけが見てしまった。
その事実が何かを変えたのかと聞かれたら、たぶんそのときの僕は、まだ何も変わっていないと答えたと思う。
ただ、見え方は少し変わった。
教室の真ん中で笑っている朝倉を見ても、あのとき猫に向かっていた声を思い出すようになった。
誰にでも同じように明るい人だと思っていたのに、そうじゃない時間があることを知ってしまったからだ。
そして一度そういうことを知ると、人は前みたいには見られなくなる。
これは確か秒殺だった気がします。多分どこも変えてない気がします。AIが出した文章そのままだった気がします。
決していい文章ではないと思うんですよね。何がって言われるとうまく言葉に出来ないのが悔しいですが。
面白くない理由はこれだよ!って言語化できる人いれば教えてください~。




