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18話

で、休日当日。


あれはさすがに、ちょっとじゃなく緊張した。


勢いで約束した時はどうにかなる気がしてたのに、当日になると急に現実になる。しかも連絡先を交換してない。今思い返しても、あれはだいぶ不便だった。もし来なかったらどうするんだろう、とか普通に考えたし、そもそも何分待つのが正しいんだろう、とか、そういう変なことばっかり考えてた。


十分なのか三十分なのか、一時間だとさすがに重いのか。いやでも、私から誘ったんだから少し長めに待つべきなのかな、とか。そこまで考えて、我ながら面倒くさいなと思った。


でも、駅に着いた時、橘が先に待ってるのを見つけて、全部どうでもよくなった。


あ、いた、って思っただけで、すごくほっとした。たぶん思ってたより、ちゃんと来てくれたことが嬉しかったんだと思う。変にテンションも上がったし、ちょっとだけ笑いそうにもなった。昔の人って、待ち人に会えるだけで嬉しいとか、ほんとにあったのかな、とかまで考えたし。いや、たぶんあるんだろうなって、その時は妙に思った。


モールに入ってからは、わりと普通に楽しかった。


店を見て回って、軽口を言って、橘が呆れたみたいな顔でついてくるのも、なんだかちょうどよかった。猫の置物を買ったのも、たぶん完全に思いつきではなかった。


あれ、橘が少しだけ反応したから選んだんだと思う。


校舎裏の猫にちょっと似てたし、橘もあれには珍しくちゃんと「いいんじゃない」って言ったから。その時点で、最後にあげようかなって少し思ってた。日頃の感謝、って言うとちょっと大げさだけど、でも、来てくれたお礼にするにはちょうどいい気がした。


お昼にフードコートへ行って、そこで言われたことは、今思い返しても少し困る。


クラスでの私とは少し違う、って。猫に餌をやってる時みたいで、今のほうが話しやすい、って。


あれはずるい。


いや、別に橘はずるく言ったわけじゃない。たぶん本当にそう思ったから、そのまま言っただけなんだと思う。だから余計に困る。こっちはそれなりに、普段の顔とそうじゃない時の顔を分けてるつもりなのに、そんなふうに改めて言われると、見えてるんだ、って思うし。しかも、その方がいいみたいに言われると、嬉しいけど困る。


あの時、ほんとはちょっとかなり嬉しかった。


でも、そういう時ほど、うまく返せない。


本屋は本屋で、面白かった。


橘、本の前だとほんとに顔が変わるんだなって思った。真剣っていうか、ちゃんとその中に入っていく感じがある。普段は静かで、どっちかというと受け身っぽいのに、本を選んでる時だけ迷いがないのも少し意外だった。


で、見てたら、思ったより長かった。


あれはちょっと面白くなってしまった。だからつい、あとでいじった。そしたら、ああいうふうにちょっと拗ねたみたいな返し方もするんだなって分かって、そこも意外だった。


静かで真面目で、たまに真っすぐで、でも少し拗ねる。


そういう細かいずれ方が、なんか人っぽくてよかった。


カフェでは、少しだけ彼の話も聞けた。


どういうふうに本を読んでたのかとか、友達が多くないこととか、そういうの。聞けたのはよかったけど、正直、それより自分が寝たことのほうが衝撃だった。


あれはほんとに反省してる。


自分で誘って、こっちが行きたい場所に連れ回して、質問みたいなことまでして、その最後に疲れたから寝るのは、さすがに良くない。ちょっと目を閉じるくらいのつもりだった、は、たぶん言い訳だし。結果として普通に寝てたんだから意味がない。


しかも橘、起こさず待っててくれたし。


あれも、だめだなと思った。その優しさに、当たり前みたいに甘えたらだめだ。橘はたぶん、ああいうことを普通にできる人なんだと思う。でも、だからって受け取る側まで普通みたいな顔をしてたら、たぶん違う。


そこはちゃんと反省しないといけない。


そのあと帰る流れになって、最後に猫の置物を渡せたのは、ほんとによかった。


あれを渡せなかったら、たぶん私は帰ってからずっと引きずってたと思う。来てくれてありがとう、の代わりみたいなものだったし、今日のことをちゃんと形にできた感じがしたから。橘が受け取ってくれた時点で、なんとなく一日はきれいに終われた気がした。


そこまで考えてから、私はもう一回スマホを見た。


美緒からのメッセージは、まだそのまま残ってる。どうせこのあと、今日どこ行ったのとか、何話したのとか、そういうのを知りたがるんだろうなと思う。


でも、寝たことは言わない。


あれはちょっと、知られたくない。というか、絶対に面白がられるし、しばらく言われる。


だからそこは秘密。


返すなら、楽しい一日だった、くらいでいい気がした。

これで第一章は終わりました。

お付き合い頂きありがとうございます。

面白くなるように日々試行錯誤の連続ですが、ちょうど自分にとってもいい勉強になります。

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