17話
本当に、あの次の日に来たのはびっくりした。
昼休み、いつもみたいに校舎裏で猫に餌をやってたら、橘が来た。しかも、ただ来ただけじゃなくて、猫缶まで持って。
え、どうして、って普通に思った。そんなキャラだったっけ、とも思った。猫のことを見られた次の日に、当たり前みたいな顔で猫缶を持ってくるの、だいぶ変だと思う。
理由を聞いても、本人もよく分かってなさそうだった。
食べるかなって思って、みたいなことを言ってたけど、あれはたぶん説明になってなかった。自分でも、なんで来たのか整理できてない感じだったし。なのに猫缶だけ渡して、じゃあって帰ろうとするから、意味が分からなすぎて逆にちょっと面白かった。
だから引き止めた。
せっかく持ってきたのに、そのまま帰るのも変だし。というか、あそこで帰られたら、それはそれで気になって仕方なかった。結局、二人で並んで猫が食べるのを見た。
少し話してみると、やっぱりいい人だった。
なんていうか、少し抜けてる。変に格好つけないし、うまく言えないことはちゃんとそのまま変なまま出てくる。でも、そのくせ優しい。しかも、優しいですって顔をしない。ただ普通にそうしてるだけ、みたいな感じだった。
猫が食べ終わったら、橘は本当にそのまま帰っていった。
猫缶だけ持ってきて、ちょっと話して、ほんとに帰るんだ、って思った。あれはちょっとおかしかった。いい人なのに、ちょっと変で、でも変なところが嫌じゃなかった。
それから、教室で少し目で追うようになった。
別にずっと見てるわけじゃない。ただ、目に入ると前より気になるようになった。猫缶のことが一回きりの思いつきなのか、それとも普段からそういう人なのか、なんとなく確かめたくなったのかもしれない。
見てると、小さいことをいろいろやってた。
教室の後ろの小さな本棚で本を取る時、ついでみたいに別の段の本も少し整えてたり。近くで誰かがうるさく喋り始めたら、何も言わずに椅子を引いて少しだけ離れたり。ゴミ箱がいっぱいになってたら、通りすがりみたいな顔で少し押し込んでたり。
誰かに見せたいわけでもなくて、それが当たり前なんだろうなって感じだった。
そういうのを見てると、ああ、猫缶だけが特別だったわけじゃないんだって分かった。あの人はたぶん、困ってるものとか、ちょっとずれてるものを放っておけないだけなんだと思う。
それがなんだか、少しだけ嬉しかった。
しかも、ああいう優しさって、たぶん気づかない人は気づかない。だから、私だけが先に知ってるみたいで、少し勝ち誇った気にもなった。子どもっぽいなとは思うけど、でも、あれはちょっとだけそうだった。
放課後に図書室にいることがあるって聞いたのも、そのころだった。
最初に行く時は、さすがに少し緊張した。校舎裏とは違うし、教室の外でわざわざ会いに行くみたいで、ちょっとだけ意味が変わる気がしたから。でも、橘は本を読みながらでもちゃんと短く返してくれたし、嫌な顔もひとつしなかった。
それで、気づいたら何回か行くようになってた。
図書室は、猫とは別の息抜きの場所になった。学校の中で、ちょっとだけ素の自分でいられる、もう一つの場所。軽口を言っても嫌な顔をしないし、適当に流すくせに、ちゃんと返してはくれる。そういう時間が思ったより居心地よかった。
たぶん、安心してたんだと思う。
で、あの日。
少しクラスで嫌なことがあって、ちょっと落ち込んでた。大したことじゃないけど、なんとなく引っかかる、ああいうやつ。だから少し、どうかしてたんだと思う。
図書室で話してた時、ふと、この続き、外でもしたいなって思った。
自分でも急だなと思ったし、何を言ってるんだろうとも思った。でもその時は、図書室の中だけで終わるのが嫌だった。もう少しだけ一緒にいたいとか、そういうふうにきれいに言える感じでもなくて、ただ、ここで切るのが変に惜しかった。
それで誘ってみたら、橘が少し言い淀んだ。
あれで一気に焦った。
嫌なのかなって思った。やっぱり変だったかなって。そしたらもう、その場にいるのが急に恥ずかしくなって、変な勢いのまま休日の約束まで口にしてしまった。
今思うと、だいぶ雑だった。
でも、あの場にいたら、たぶん恥ずかしさで耐えられなかった。
だからそのまま、昇降口で別れた。
以前お伝えしたセッション切り替え時の対策ですが、まずは変える時に同じ様にするためのプロンプトを作成させるのと現行の物語の状況を詳細にまとめさせたJsonファイルを突っ込んでます。
それでも、結構うまくはいかないので多少の修正が必要ですね。




