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15/18

15話

朝倉は壁に寄りかかったまま、目を閉じていた。


最初は、少し黙っているだけかと思った。けど、しばらく見ていると、肩のあたりが小さく上下しているのが分かる。呼吸がゆっくりになっていて、返事を待っても何も返ってこない。どうやら本当に寝たらしかった。


出かけた先のカフェで、そのまま眠る。


そういうことを、朝倉はわりと自然にやってしまうんだなと思った。教室で見る朝倉珠里なら、たぶんこんなふうにはならない。少なくとも、人前でここまで気を抜く感じはしない気がした。


自由だな、とぼんやり思う。


それでふと、猫のことが頭に浮かんだ。気まぐれで、気が向いたら近くにいて、眠くなったら勝手に丸くなる。そう考えると、朝倉はまるで猫みたいだった。


少しだけ可笑しくなる。


口元がゆるんでから、自分が笑っていることに気づいた。人のことを考えて、こんなふうに自然に笑うことなんて、たぶんあまりない。


僕は鞄から読みかけの文庫本を取り出した。


開きかけのまま挟んでいたしおりを抜いて、ページを開く。周りの席は混んでいて、土曜の午後らしくずっとざわついていた。低い話し声も、カップを置く音も、氷のぶつかる音も、絶えず重なっている。それなのに、この席の周りだけ少し切り取られたみたいに静かだった。


僕はそのまま本を読む。


ときどき顔を上げると、朝倉は同じ格好のまま眠っていて、カップの中の氷だけが少しずつ減っていた。時間はちゃんと過ぎているのに、そのことだけが置いていかれている感じがした。


しばらくして、小さな声がした。


「……ん」


僕は本から顔を上げる。


朝倉が少し眉を寄せて、目を擦った。まだ焦点が合っていない顔のまま、周りを見て、それから僕を見る。


「え。私ほんとに寝てた?」


僕は肩をすくめた。


朝倉は目元を押さえたまま、小さく息をつく。


「ちょっと目を瞑るくらいのつもりだった。失礼だね」


「気にしてないよ」


本を閉じながら言う。


「疲れたんじゃない。僕はしゃべれないことが苦になる人間じゃないし」


朝倉が少しだけ笑った。


「まるで、私がしゃべれないと死んじゃうみたいじゃん」


「違うの?」


「違うよ。たぶん」


たぶんなんだ、とは言わなかった。朝倉が寝起きのまま笑っているのを見ていたら、それで十分な気がした。


残っていた飲み物を、それぞれ少しずつ飲む。氷がもう溶けかけていて、さっきより味が薄くなっていた。どちらからともなく立ち上がって、カップを片づける。


カフェを出る。


そのままモールの通路を歩いて、外へ向かった。館内放送が遠くで流れていて、吹き抜けを抜けると少し空気が変わる。帰る人たちの流れに混ざるころには、今日の終わりが近いことが分かった。


駅までの道では、あまり話さなかった。


たまに朝倉が「思ったより寝てた?」とか「変な顔してなかった?」とか聞いて、僕が「してないんじゃない」と返すくらいだった。最寄駅が逆方向なのは最初から分かっていたし、だから別れが来ることも、途中からずっと前提みたいにそこにあった。


駅に着いて、改札の手前で足が止まる。


「じゃあ、ここだね」


朝倉がそう言って、自分の小さな買い物袋を覗き込んだ。何か探すみたいに手を入れて、それから顔を上げる。


「はい」


差し出されたのは、雑貨屋で買った猫の置物だった。


一瞬、意味が分からなかった。


「今日は来てくれたお礼」


朝倉は笑って言う。


「え、いや……いいよ、そんなの」


「いいの」


前にも聞いた返し方だった。


「私があげたいだけだし」


受け取るしかなかった。手のひらに乗った小さな陶器は、思っていたより軽いのに、妙に存在感があった。片耳が少し立っていて、目元の黒い線が細く入っている。あのとき棚で見たままの顔をしていた。


僕が何か言う前に、朝倉はもう一歩だけ下がる。


「今日は楽しかった。またね」


そう言って、軽く手を振った。


そのまま自分の乗り場のほうへ向かっていく。人の流れに混ざる前に一度だけ振り返って、また小さく手を振って、それで終わりだった。


僕はしばらくその場に立ったまま、手の中の猫を見た。


それから、壊れ物でも扱うみたいに、そっと鞄を開ける。中で本の角に当たらない場所を探して、ゆっくりしまう。ファスナーを閉じる手つきまで、少しだけ慎重になった。


そのまま、僕も自分の帰るほうへ歩き出した。

ちなみにこれを生成する時に使ったプロンプトの文字数は9000文字でした。

フォーマットがあって、プロンプトも作ってもらってますが、果たしてそれが正解なのかよくわからないですほんとうに。。。

正解がないものを探すのは大変ですね。

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