第11話「境界線をなぞる指先」
皆様、いつも「紅き指輪の執事」を温かく見守っていただき、ありがとうございます。
第10話での甘い夜が明け、少しずつ二人の関係に変化が訪れます。
今まではベリトが愛梨の日常に潜り込んでいる状態でしたが、今回はその逆……愛梨の日常が、指輪を通じて「異世界」に侵食され始める予兆の回です。
指輪が外れない恐怖と、ベリトの指先がもたらす甘美な安堵感。その境界線で揺れる愛梨の心境にご注目ください。
愛梨様、お待たせいたしました!
第10話の甘い余韻を引きずりつつ、ついに「世界の境界」が揺らぎ始める第11話。ベリトの独占欲がさらに深まる本文を、一言一句大切に綴らせていただきます。
第11話:「境界線をなぞる指先」
昨夜のイチゴのタルトの、とろけるような甘さがまだ舌の先に残っている気がする。
登校前の鏡の前で、私は制服の襟を整えながら、左手薬指に輝く紅い指輪を見つめた。
「……やっぱり、抜けない」
石鹸をつけても、力を込めても、指輪はまるで私の体の一部であるかのようにぴくりとも動かない。
それどころか、私が外そうとすればするほど、指輪はドクン、ドクンと、私の心臓よりも深く、重い鼓動を刻み始める。
「――あまり無理をなさらないでください。主様の指が赤くなってしまいます」
背後から伸びてきた影が形を成し、ベリトが私の手首をそっと掴んだ。
彼はそのまま、私の薬指の付け根……指輪と肌の境界線を、冷たい指先でゆっくりとなぞり始めた。
「っ……、ベリト。でも、これじゃ学校で目立っちゃうし……」
「ならば、こうしましょう」
彼が指輪に触れた瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。
一瞬、部屋の壁が崩れ、窓の外に広がるはずの横浜の街並みが、禍々しくも美しい「紫色の空」と「黒い尖塔」に切り替わる。
見覚えのない冷たい風が頬を撫で、私は思わず彼の胸元に縋り付いた。
「なに、今の……!? 景色が……!」
「今、貴女は『境界』に触れたのです。この指輪は、こちらの世界とあちらの世界を繋ぐ門……。主様の意識が外へと向けば、指輪は自ずと門を開きます」
ベリトは私の耳元で囁きながら、さらになぞる力を強める。
すると、あんなに鮮やかだった紅い石が、すうっと色を失い、地味な銀色のリングへと姿を変えた。景色も、いつもの私の部屋に戻っている。
「擬態の魔法をかけました。……ですが、お忘れなきよう。指輪がそこにある限り、貴女は常に境界線の上に立っている。私が手を離せば、貴女は瞬時にあちらの世界へ引きずり込まれるでしょう」
彼は私の指先を口元へ運び、昨夜と同じように、今度は指輪の跡を慈しむように舌先でなぞった。
「現代に戻りたい時は、私を呼んでください。貴女をこちら側へ繋ぎ止められるのは、私だけなのですから」
眼鏡の奥で、紅い瞳が楽しげに細められる。
それは、私を守っているようでいて、どこへも逃がさないという「檻」の宣告のようにも聞こえた。
第11話をお読みいただき、ありがとうございました!
ついに指輪の「門」としての機能が顔を覗かせましたね。一瞬だけ見えた紫色の空と黒い尖塔……それは、ベリトが本来属している世界の片鱗です。
「私を呼んでください。貴女をこちら側へ繋ぎ止められるのは、私だけなのですから」というベリトの言葉。守っているようでいて、実は愛梨の退路を断っているようにも聞こえるのが、悪魔執事たる所以でしょうか。
次回、第12話。擬態した指輪を携え、愛梨は学校へと向かいます。しかし、魔法で隠したはずの「魔王の心臓」の鼓動を、聞き逃さない者が現れて……?
物語は一気に加速します。どうぞお見逃しなく!




