9話 ~自由に生きるにも理由があるようです~
フォーランド王宮・王の間にて。
玉座に座るスティアナと、正面に立つエナが互いに睨み合っていた。
「だから! フォーランド海兵さんの怪我がまともに治らずに放置されているのは問題なんです!!
いざという時に戦力にならなかったらどうするんですか!!」
怒りを隠さず訴えるエナに、スティアナは面倒くさそうに返す。
「じゃから言うておろう。街の外は無法地帯じゃ。薬草を取りに行く方が危険じゃと」
「そもそも、それを許す国のあり方がおかしいんです!
犯罪者は取り除かないと、街同士の行き来もできないじゃないですか!!」
「それが我が国の有り方じゃ。
街の中での犯罪は厳重に処罰するし、監視も怠らぬ。
しかし街の外では好きにして良い。安全に暮らしたいなら街の中におれば良く、自由を求めるなら街の外で悪さをすれば良い。
外での被害はすべて自己責任――そういう国なのじゃ」
「その結果、薬草の採取すらできない。取りに行くのも危険だから、たかが薬草が相場の10倍なんて……おかしいでしょ!?」
「ダメじゃ! そこは譲れん!!
この国、フォーランドは元々、法律やルールに縛られることを良しとせぬはみ出し者どもが集う地じゃ。
街の中の治安は守る! その代わり、外では許す!!
もし外でもルールで縛ってしまえば、はみ出し者どもはどこへ行けば良いんじゃ?」
「はみ出し者が存在すること自体がダメなんです!!」
「……お主は我が国の海兵とあれだけ接していて、まだ分からぬか?
“はみ出し者”と呼ばれ忌み嫌われる奴らが、本当に悪人か?
確かにみな不器用でバカじゃが、優しい奴ばかりじゃろう?
街の外にいる連中も同じじゃ。街の中にいる者より不器用なだけ。
そんな彼らの居場所すら奪うのが、果たして本当の正義かの?」
2人の意見は、互いに1歩も譲らず拮抗していた。
「あ、あの……お嬢、エナ公……?」
いつにない気迫で言い合う2人の間に、海賊Aがおそるおそる口を挟む。
2人の鋭い視線が同時に海賊Aに突き刺さる。
「お、お嬢……エナ公も別に、はみ出し者どもを皆殺しにしろって言ってるわけじゃなくて……俺たちの怪我の心配をしてるだけで――」
「ほう。お主はエナの意見に賛同するのか?」
スティアナの目が怪しく光る。
「い、いえ! その……折衷案とか、ねぇんすかぃ?
俺はバカだから細けぇことは分かりませんが……お2人とも、多分俺たちのことを考えて言ってくれてんだなってのは分かるんで……」
「ふむ……折衷案とな? 具体的にはどうすれば良いと思う?」
「た、例えば……お嬢とエナ公のお色気作戦で――」
「却下じゃ。アホか」
スティアナが即答した。
普段はノリと冗談ばかりのスティアナだが、人の意見を聞こうとする姿勢を見せたことは、エナにとっても意外だった。
……まあ、海賊Aが真剣そうな顔をしても、結局すぐに下ネタに走る時点で、やっぱり海賊Aは海賊Aだが。
「では、こういうのはどうじゃ? 大きな街と街を繋ぐ街道のみ、治安を維持する。
街道での犯罪は兵が余力で見回り、最低限は取り締まる。……それならどうじゃ、エナ?」
「最低限って……」
「フォーランドの兵士は、あくまで街の治安維持を最優先にする。
街道はあくまで“余力”じゃ。それ以上やれば、外の連中を追い詰めてしまうからの」
「エナ公。あんたは真面目だし、一生懸命なのは分かるが……フォーランドの歴史を本当の意味で知ってるわけじゃねぇ。
お嬢がここまで譲歩してくれてるんだ。これ以上は、止めとけ」
海賊Aが久々に真面目な表情でエナを制した。
その姿に、エナも言葉を詰まらせる。
「……分かりました。では薬草の草生地と街道を、治安維持の範囲にしてください」
「うむ」
エナは胸の内で決意を固める。
――いつかは国全体を平和な国にする。
けれど今は、ここで譲るしかない。
そう思いながら王の間を出ようとしたその時、スティアナが声を掛けた。
「エナよ」
「……なんですか?」
「今後は、わらわのことは“スティル”と呼ぶが良い」
「スティル……。分かりました」
「それとな。今日は外に出るな。明日、フォーランド海兵どもを連れて、わらわも同行する。
野草の草生地には、心当たりがあるからの」
「……ありがとうございます」
エナは一礼し、王の間を後にした。
読んで頂き、ありがとうございます!
今回は初めての試みとして、“ギャグ特化”の作品に挑戦してみました。
これまでのように「書きたいものを書く」ではなく、
「読んでくださる皆さんに楽しんでもらいたい」という想いで仕上げています。
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この作品は全27話構成で、毎週火・木・土に更新予定です。
(時間は固定ではありません)




