5話~なぜか私が船着き場の修繕をしています~
エナは一旦城に戻ると、デッキブラシやバケツを持って港へと戻り、おもむろに清掃を始めた。
泥やカビで隠れていたが、掃除を進めるほどに改めて「ここがどれほど汚く、腐っているか」が浮き彫りになる。
聖騎士の仕事って、こんなことじゃないのに―――。
あまりに惨状を放置するフォーランドの現状に、エナの胸は少し悲しくなっていた。
国を代表する王妃は型破りすぎて、何を考えているのか分からない。
国を守る海兵たちは、まるで海賊のように粗雑で汚らしい。
港も街もすべてが痛んでいるのに、誰も直そうとしない。
……けれど、国民の笑顔だけはジールド・ルーンよりも魅力的に感じられる。
* * *
港の床をデッキブラシでこすり、水で泥を流す。
続けて雑巾で拭いていると――
サワッ。
突然、お尻に触れられる感覚。
「きゃあっ!」
エナはすかさず立ち上がり、犯人を睨む。
昨日スカートをめくったあの海兵だった。
周りにも仲間が数人。
エナは腰の剣に手をかけ、戦闘態勢を整える。
「ちょちょちょ! 待ってくれ!!」
海兵が慌ててエナを制止する。
「なんなんですか!」
「い……いや……手伝おうと思って……」
「はぁ!? 手伝うのにお尻を触る必要がありますか?」
「いや……本当にごめん! 許してくれよ、手伝うからさぁ!」
「手伝うって、本来あなた方が―――」
そう言いかけたエナの視界に、腕まくりをした男たちの腕が映る。
傷だらけだ。いや、治った跡だ。
しかし所々は膿み、変な塞がり方をしている。
「な……なんでそんな怪我を放置しているんですか!」
エナは駆け寄り、海兵たちの腕に神聖魔法を施し始めた。
1人1人丁寧に、水で洗い流しながら。
「をををを!!」
塞がっていく傷を見て、海兵たちは歓声を上げる。
「この国には回復できる奴はいねぇからな。すげえよ、嬢ちゃん!」
「回復魔法がなくても、民間治療でなんとかなるでしょう!?」
「みんなガサツだからなぁ~……バカーナさんも『唾つけとけ』って片づけてたし」
「そんな……」
傷を治した海兵たちは次々と船着き場の掃除に加わり、板を運んできて腐った場所を補強し始めた。
「わりぃな……俺たちは、あんたと仲良くなりてぇんだよ」
「仲良くなりたいなら、セクハラは逆効果だと思いますけど……」
エナは首をかしげる。
この人たちは、もしかしたら接し方を知らないだけなのではないか――そんな疑問が心に芽生える。
前任のバカーナはあの調子だった。
王妃スティアナは言うまでもなく自由奔放。
ならば彼らは、ただその環境で育ち、誰にも教わらずに生きてきただけなのでは?
「あんたみたいな綺麗なねぇちゃんと、どうやれば仲良くなれるんだよ?」
別の海兵が聞いてくる。
「普通にしてくれれば……」
悪気のない彼らの無礼に、エナはどう答えるべきか逆に悩み始めていた。
読んで頂き、ありがとうございます!
今回は初めての試みとして、“ギャグ特化”の作品に挑戦してみました。
これまでのように「書きたいものを書く」ではなく、
「読んでくださる皆さんに楽しんでもらいたい」という想いで仕上げています。
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それが次の執筆の大きな力になります✨
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この作品は全27話構成で、毎週火・木・土に更新予定です。
(時間は固定ではありません)




