3話~ここで私は何を引き継げば良いのでしょうか?~
フォーランドの街並みは、一言で言うと汚い。
道は土のまま。立ち並ぶ家もほとんどが木造建築で、掘っ立て小屋のような作りをしている。
本国ジールド・ルーンは港も街も白石灰石で整然と造られており、とても美しい。
その国で生まれ育ったエナには、この街はどうしても「汚い」としか感じられなかった。
しかし―――。
待ちに暮らす人々は質素ながらも、屈託のない笑顔を見せている。
……その街のど真ん中を、スリングビキニ姿で堂々と歩く王妃スティアナをどう表現すればいいのか、エナには分からなかったが。
やがて木造の街並みの先に、不釣り合いな白石灰石の建物が視界を奪った。
そこがフォーランド王城である。
過去の敗戦後、ジールド・ルーンが「国の象徴」として寄贈した建物だという。
本国の城に比べれば小さいが、塀や物見の塔まで備わったしっかりした造りは、いかにもジールド・ルーンらしい。
門兵もやはり港の連中同様に汚らしい格好をしていた。
「お嬢、お戻りで?」
「うむ。こいつが新しい担当のエナじゃ。生娘じゃが、いじめるなよ」
「へい!」
――スティアナのスリングビキニに誰も突っ込まない。
(……いつものことなの!? 私が異常なの!?)
城内の床は大理石でしっかりと作り込まれていた。
スティアナはまっすぐ王の間へ進み―――
黄金に輝く玉座へ腰を下ろし、足を組んで堂々と座った。
赤いスリングビキニと玉座の組み合わせは、あまりにもアンバランスで、エナは思わず目を疑った。
「ようこそ我がフォーランドへ。歓迎するぞ、エナ・レンスター」
「ちょっと待ってください! 思考が追いつかないのですが……。
まず貴女が国の代表なら、もう少し……その……正装を……」
「む? なんじゃ? わらわの乳が羨ましいのか?
安心せい、男は大きいのが好きというやつばかりではないようじゃからの、かっかっか!」
「大きさの話なんてしていません! っていうか私だって言うほど小さくありません!!」
「ほぉ? 見せてみろ?」
「はぁ!?」
頬を赤らめるエナを、スティアナはニヤニヤと見つめる。
「ふむ。なかなか真面目で可愛いやつじゃの。長旅で疲れたじゃろ?
部屋へ案内するからついてこい」
言うとスティアナは立ち上がり、ぺたぺたと足音を立てながら王の間を出ていった。
エナも慌ててその後を追う。
「王妃! 私の疲れを思いやって頂けるのはありがたいですが、私が言っているのは―――」
「ここは海と面しておる。日差しも強い。
金属製の鎧はすぐにサビるし、熱で体力も無駄に消耗する」
エナの言葉を遮るように、スティアナがさらりと答える。
「騎士は鎧の手入れも、武器の手入れも小まめにします!」
「お堅いのは結構じゃが、それだと疲れるじゃろ?
お主の上司のシンなんかわらわ並みにめちゃくちゃじゃろて?」
「シン団長は―――」
「ここがお主の部屋じゃ。鍵も付いておるし、わらわの部屋の横じゃ」
横!?(なんで横なんですか!?)
「お主のような生娘がこの国にいたら、うちのアホ共はいつまでもアホじゃから危ないんじゃ。
何かあったらわらわの部屋に駆け込むんじゃぞ」
困惑するエナに、スティアナは当然のように言う。
「ありがとうございます……」
「気にするな。後で食事を持ってこさせるから、ゆっくり休むがよい」
言うとスティアナはぺたぺたと王の間へ戻っていった。
「あっ! 違います!! 私が貴女をお守りするんです!!」
エナが慌てて言い返すも、スティアナは「かっかっか!」と高笑いしながら歩き去っていく。
「もう……」
エナはスティアナのいなくなった廊下をしばし眺め、自室に入った。
――あれ? 結局、引継ぎはしてないのだけど……。
部屋に入ると、エナの心はなおさら重く沈んでいったのであった。
読んで頂き、ありがとうございます!
今回は初めての試みとして、“ギャグ特化”の作品に挑戦してみました。
これまでのように「書きたいものを書く」ではなく、
「読んでくださる皆さんに楽しんでもらいたい」という想いで仕上げています。
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この作品は全27話構成で、毎週火・木・土に更新予定です。
(時間は固定ではありません)




