12話~王妃は日中から宴会をしていました~
「おーーい、エナ!! 今日はちょいとわらわに付き合ってくれぬか?」
いつもは勝手にどこかへ行ってしまうスティアナが、珍しくエナを誘ってきた。
「えっ!? 変な所ですか?」
警戒するエナに、スティアナは「かっかっか!」と大笑いする。
「お主ならば公務に役立てそうな場所じゃ」
スティアナに案内され、エナは城を出て街の大通りを歩いた。
城下町の出口付近にある、比較的しっかりした木造の建物の前でスティアナが立ち止まる。
「ここじゃ」
そう言いながら建物に入っていくスティアナ。
「ヘルガランド……」
エナは看板を読み上げながら、その後に続いた。
カランカラン――。
小気味よい音と共に、アルコールの香りが鼻をつく。
店内は薄暗く、海賊(海兵)たちが酒を片手にガヤガヤと楽しそうに飲んでいた。
「ちょっ! 何やってるんですか!! 今、昼間ですよ!! 警備はどうしたんですか!!」
エナが飲んでいる海賊たちを叱りつける。
「なぁに言ってるんだ、エナ公!! ここは酒の場だ!!」
「酒を飲むなら楽しくやれ! 説教なんざしてんじゃねぇ!!」
「そーだ、そーだ!! マスターにあやまれーー!!」
(……いや、日中に公務を放り出して飲んでるあんたらが悪いだろ……。)
「かっかっか! エナ、公務はしたい時にするもんじゃ!!
ガラント! いつものエールとチョコレートバスケット、あと干しイカじゃ!!」
スティアナはカウンター席に腰かけ、注文する。
「ほいよ、スティル特性ストロベリーエールだ!!」
ドンッと置かれたのは、赤みがかったエールとお洒落な皿に盛られたチョコレート、そして干して焙ったイカを細く裂いた料理だった。
「スティル! 日中は仕事をしてください!! なんでみなさんも一緒になって飲んでるんですか!?
街道の警備だってまだ不十分で、人手が足りてないのに――」
「そこの聖騎士のねぇちゃん、とりあえずこっち来て座ってくれ! そんな所に立たれちゃ商売の邪魔だ」
酒場のマスターに注意され、エナはおずおずとスティアナの隣に座る。
「マスターさんも日中からお店を開かないでください!」
ドンッ!!
マスターに文句を言うエナに、彼はエールにレモンを絞ったフレッシュエールを差し出してきた。
「お酒は――」
「まぁ、まずは飲め。一杯目はおごりだからよ!」
言われるがままに、エナはフレッシュエールを一口。
……美味しい!!
ジールド・ルーンにもエールは存在する。
普通は、エール単体をそのままつまみと一緒に飲むのが主流。
ここのように果汁を混ぜる文化を、エナは知らなかった。
エナの反応に、マスターは満足げに頷いた。
「俺はガラント。ここは冒険酒場って店だ」
「冒険酒場?」
聖騎士を目指して育ったエナは、その存在すら知らなかった。
「ここはな、旅人が路銀を稼ぐために情報を集めたり、旅の話を語り合ったりする場所だ。
2階に行けば個室で寝ることもできる。まあ、金は取るがな」
「ぱぁ!! おい、ガラント!! 次はチョコレートエールじゃ!!」
はやっ! もう飲んだの!?
ドンッ!!
ガラントが黒みがかったエールを渡すと、スティアナは嬉しそうに受け取り、またぐびぐびと飲み始めた。
……いや! まず何か説明してよ!!
「スティルはな、国全体を憂えているあんたにここを紹介したかったそうだ。
旅人が集まる酒場だから、国内の街道や点在する村での出来事をここで聞くことができるだろ?」
「あ……スティルは私のためにここを?」
いつも人をからかうようなことばかりするスティアナが、協力的な行動をしてくれたことが少し嬉しく、エナはもう一口フレッシュエールを口にする。
「美味しい……」
「まっ、エナの給料は本国から支払われるから、通常料金の倍で請求していいって条件付きだがな!」
ガラントがすかさずオチを言う。
「あ……そういうことね……。このパターン、慣れてきたよ……」
読んで頂き、ありがとうございます!
今回は初めての試みとして、“ギャグ特化”の作品に挑戦してみました。
これまでのように「書きたいものを書く」ではなく、
「読んでくださる皆さんに楽しんでもらいたい」という想いで仕上げています。
もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と感じて頂けましたら、
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この作品は全27話構成で、毎週火・木・土に更新予定です。
(時間は固定ではありません)




