私が拾った美形男子の耳がとんがっている件について
スズメがチュンと鳴く。
爽やかな朝だ。新しい朝だ。希望の……んぁっ?
ふと、横を見ると、そこには知らない男が眠っていた。そして何故か、二人とも一糸纏わぬ姿である。わお、これが噂の、朝チュン!
……言うてる場合か!
私は内心、口から心臓が出そうになりながらも、叫ぶことも取り乱すこともなくそっと布団を出る。床に散らばっている服をかき集め身に着けると、部屋を出ることに成功した。一切音を立てずやり切った自分を、褒めたい。
部屋を出たところで、確認する。ここは、我が家だ。他人の家に転がり込んだわけではない。どちらかと言えばこれは「お持ち帰り」である。
◇
昨夜は、綺麗な三日月の夜だった。
会社で理不尽な出来事があった私は、むしゃくしゃを解消するために行きつけの飲み屋でしこたま飲んだ。その帰り道、月の美しさに見とれながら家路を急ぐ。
誕生日を迎えれば二十八になるが、数年前に彼氏と呼ばれる者と別れてからは、週末に特段用があるわけでもない。だが、花の金曜午前様。酔っ払いに絡まれるようなことになれば厄介だ。だから、急ぐ。
とある公園の横を過ぎようとした時だった。
「……え?」
山のような形の遊具のてっぺんに、男が一人座り込んでいるのが見えた。月と外灯に照らされたその姿は、この世のものとは思えないほどに美しく、そして異質でもあった。
「なに……あれ?」
思わず足を止め、見入ってしまう。
男は、マントのようなもので体を覆い、空を見上げていた。銀色の髪。そこからスッと見えているのは……耳?
「宇宙人だ……」
私は彼を、心の中で「スポック」と呼んだ。海外ドラマに出てくる、耳のとがった宇宙人である。そうだ、きっと宇宙船から落ちてしまったに違いない。何の根拠もなく、私はそう思った。少し飲みすぎたのだろうか。
「あ」
スポックが私を見た。私は慌てて目を逸らし、歩き出す。せっかく順調に進んでいたのに、余計な行動を取ってしまった。週末なのだ。尖がり耳の宇宙人コスプレをした大人が公園にいたって不思議はない。接触さえしなければ、その程度のことは日本のどこにでも転がっていることだ。
「待って!」
背後から声がする。スポックよりいい声だ。想像より高く、甘い。……などとどうでもいいことを考え、頭を振る。
帰る。
私は帰る。
「ねぇ、待って!」
カツカツと足音が聞こえる。私は追われている。私は足を速めた。振り向いたら負けだ、というおかしなゲームが、脳内で瞬時に開催される。
「待って、あっ」
ずしゃ、という音がして、私はつい、振り向いてしまった。美しいスポックが地面に倒れている。コケて転んだのだろうことがわかる。……わかるが、どうすればいい? ここで「大丈夫ですか?」と声を掛けようものなら、家に帰る時間が遅くなる。知らない人に声を掛けられても話したらいけません、と小学校で習った。つまり……
「……大丈夫ですか?」
そんなひどいこと出来るわけがない。こう見えて私は、お節介が服を着て歩いているようなものだ。だからこそ今日だって、会社で私のせいではない失敗を私のせいにされたのだ。親切心を仇で返してきた睦美のことは、絶対許さん!
「助けて……」
スポックが小さな声で呟く。私はゆっくりと歩み寄り、
「どこか痛いですか? 救急車呼びますか?」
と訊ねた。
「きうきうしゃ……?」
スポックが顔を上げる。
「うっわ」
私は思わず仰け反った。さっき遠くから眺めた時にもイケメンだとは思った。だが、目の前で見るスポックは、その百倍美しい。切れ長の目……瞳はアクアマリンのような水色。肩で切り揃えられた銀色の髪と、これでもかというほど相性がいい。整った目鼻立ちは甘く、味方によってはクールビューティー最高峰のパリコレモデルのようでもある。
しかし、一体彼に何があったというのか? スポックは見慣れない服を着ていた。いや、見慣れないというか……コスプレのような服装なのだ。ゲームか何かに出てくる、町人? 生成りのシャツに緑のズボン。ブーツを履き、腰には太めのベルトを巻いている。そして……
「くっさ!」
スポックは……とても臭い。
◇
「……は?」
私は公園のベンチで、早くも後悔していた。やはり安易に声を掛けるべきではなかった。
スポックはお腹を空かせていたせいで動けなくなっているとわかった。だからコンビニでおにぎりと飲み物を買い与えたのだが、それを食べながら語られた話の内容は、あまりに突拍子がないものであり、スポックは……スポックではなかったのだ。
「マロウ・デ・シムサ。私の名前です。……旨いっ。こちらの世界に来たのは、私の花嫁の核を取り戻すためで、旨いっ……しかし何をどうすればいいかもわからず一日中探し回っていたのですが旨いっ。何故か思うように力も使えず、旨い!」
食べながら感想を言って、状況説明もしている。器用だ。某、炎の人を思わせる発言だが、本人にその気はないだろう。
「それは大変でしたね。では、頑張ってくださいね!」
私は早口でそう告げると、すっくと立ちあがる。
「待ってください!」
おにぎりを持っていない方の手で、私の手を取る。手に残っていたおにぎりの欠片を口に放り込み咀嚼、飲み込むと、
「見捨てないでください! こんな風に優しくしてくださったのは、あなただけなんですっ」
潤んだ瞳で見つめられ、眩暈がしそうだった。顔がいいって、ズルい……。
「そう言われても、私にはどうすることもできないですよ。あなたの話だって、どこまでが本当なのかわからないし」
だいぶ優しい言い方をした。どこまでが本当か? 全部が嘘でしょうがっ。もし本当だと思っているなら、それはそれで危険極まりないことだ。いくら顔がよくても、中二病(そういう系)は困る。
「全部本当ですっ。私がエルフ族の王家の血を引くものだということも、花嫁の欠片を探していることも!」
エルフ……。確かにエルフも、耳はとんがっている。スポックはバルカン人だけど……そうか、エルフかぁぁ。
「その、花嫁の『欠片』っての、なんです?」
脳内で電車の人身事故の現場が思い出されて、なんとなく嫌な響きだ。
「ああ、あちらの世界で大きな戦いがありまして。私の花嫁がバラバラにされ、飛ばされてしまったのです。ほとんどの欠片は集め終えたのですが、肝心な核となる部分が異世界に飛ばされたと知り、こうして追いかけてきたのですが……」
「そんなの、どうやって探すんです? こっちの世界、そこそこ広いですよ?」
エルフなんだから、北欧なんじゃない? などと、脳内で適当なことを考える。
「大丈夫です! この『導きの石』があればっ」
腰につけていた布袋から、黒い石を取り出す。途端、石が光り出した。
「はっ?」
「え?」
石から一筋の光が射し、その光は一直線に私の心臓を捕らえていた。
「……ああ、あああっ」
スポックの瞳がみるみる潤み始める。私は嫌な予感がして、後ずさった。
「セラフィナ!」
そう言って腕を伸ばすと、私を抱きしめるスポック。とんでもないイケメンに迫られているにもかかわらず、私は叫んだ。
「くっさぁぁぁい!」
◇
交番に連れて行く。
それが最善の策だと思う。けれどこの時間、派出所には誰もいない。いっそ警察を呼んで強制わいせつ罪を訴えるのも手だった。だけどそれが出来なかったのは多分……イケメンだから……じゃない! あの石のせい!
あの石には、種も仕掛けもなかった。LEDランプが仕込まれてるわけでも、電池を入れるところもない。マジックの類だというのなら、私は騙されていることになるのだろうけど……目の前の美しい顔をした男がさめざめと涙を流すものだから、つい、絆されてしまった。
そう。拾った「自称エルフ」を、家に連れ帰ってしまったのだ。
しかし! うちは一軒家だ。親は、父の単身赴任に母も同行してしまっているため両親ともにいない。兄との二人暮らし。とりあえず今日はもう遅いから、兄に話して明日警察に連れて行こうと思った。おかしな妄想話は、記憶を失くしていることにでもすればいい。それに……
「セラフィナ……」
ずっと私に熱い視線を送り続けるこの男が、離れてくれない。私の鼻が、もげそうだ。
「さ、着きましたよ」
鍵を開け、中に入る。まずは風呂に入ってもらわねばなるまい。とにかく、臭い。
「これ、兄のですけど」
着替えを一式渡し、風呂に案内する。キョロキョロと物珍しそうに目を泳がせるスポックに、風呂の使い方を教える。
「今着てる服は捨てますんで、この袋に入れてくださいね」
「捨てる?」
「ええ、臭すぎます」
ぴしゃりと言い放ち、袋を押し付けた。
脱衣所の扉を閉めると、しばらくしてシャワーの音が聞こえはじめた。
私は台所へ向かうと、迷わず冷蔵庫を開けビールを取り出す。一気に半分くらい飲み干すと、テーブルにメモ書きが置いてあることに気付く。
「ん?」
見ると、『急な出張で九州に行くことになった。お土産何がいいか後で連絡くれ』と書いてある。
「……出張?」
週末なのに? とそこまで考え、理解する。
「あいつ、前乗りしやがったな?」
兄は自由人だ。三十五を超えても未だ独身で、彼女はとっかえひっかえ存在するが、結婚には興味がないらしい。週末はフラッとどこかに旅行することも多く、出張が入ると今回のように、前乗りして現地を楽しむ。
それは別にどうでもいい。
何故今日なのだ! 得体のしれないエルフを拾ってしまったというのに、兄の不在! これは何を指すのか? 得体のしれないエルフと、二人きりだということじゃないか!
「あああ、馬鹿兄っ」
いや、得体のしれないものを拾った自分が悪い。わかってる。いつだってそうだ。可哀想だからとつい手を出してしまい、あとで大変な目に遭うのは自分だ。よく考えてから行動しなさいと、あんなに言われ続けていたのに!
私は残っていたビールを一気に飲み干し、大きく息を吐き出した。
「……まずいわね」
今夜はこの家で、二人きりということだ。
「何がまずいのです?」
「ひっ!」
後ろから声を掛けられ、思わず息を飲む。振り向くと、ほかほかピカピカになったスポックが兄のジャージを身に纏い立っている。イケメンエルフは、着ているものが兄のどうでもいいジャージだというのに、拝みたくなるほど目の保養だ。
「いや、なんでもないです」
わざわざ二人きりだということを口にすることもないだろう。そんなことより、明日は警察に行かなければ。そして事情を話し、スポックを置いてくるのだ。
「……セラフィナ」
そう呟いて私に手を伸ばす。
「ちょ、やめてよスポック!」
思わずその手を掴んでしまう。
「……すぽっく?」
しまった! つい心の声が出てしまった。えっと、なんだっけ、名前……名乗ってたけどなんだっけ? 私の脳内ではスポックとして認識されている!
「昔から君は……不思議な子だったよね」
極上の微笑みを浮かべたまま、体を寄せる。慌てて掴んでいた手を離すと、逆にその手を掴まれた。アクアマリンの瞳に、吸い込まれそうだ。
「じゃない!」
寸でのところで押し退ける。危なかった。流されていたら朝チュンコースまっしぐらだ。
「どうしたんです?」
拒否られたことに驚いたのか、絶望に満ちた目で私を見るスポ……じゃなくて、えっと。
「名前、なんでしたっけ?」
覚えてなくてごめん。でも長い名前だったから。
「……私の名は、マロウ・デ・シムサ」
やっぱ長い。色付き髪の人間ってどうしてみんな長い名前なんだろ。カタカナ苦手な私には、ほんっと無理なんだけど。
「じゃ、マロウさん」
「すぽっく、とはなんです?」
「あ~、それはえっと……」
「もしかして……恋人の名ですかっ?」
険しい顔のマロウに、慌てて手を振る私。
「違います! スポックは宇宙人ですのでっ」
「うちう……じん?」
話が前に進まない。もう、そんなことはどうでもいいの。
「あのですね、マロウさん。私はあなたが探しているセラフィナさんではないです。きっと何かの間違いです。明日になったら然るべきところにお連れしますので、今日はもう寝ましょう!」
早口で捲し立てる。だが、マロウは怪訝な顔をして私を見返す。
「然るべき場所……?」
気取られたか! 何とかうまく丸め込む必要がある。
「その、セラフィナさんは行方不明なんですよねっ? 彼女を探せるところにっ」
「セラフィナは、君だろう?」
アクアマリンの瞳に捕らえられ、私は動けなくなる。確かにあの石は私を指した……かもしれない。けれど私はセラフィナではない。それは自分自身が一番よくわかっているのだ。だから、否定するしかない。
「私ではありません。すみませんが」
「そんな……」
マロウが膝を突き、わかりやすく絶望を表現する。このままだとまた泣き出してしまうかもしれない。私は思った。「飲ませて酔わせて寝かせちゃえばよくない?」と。今にして思えば、安易だ。しかし、苦悩にアルコールはつきものではないか。私とて、飲まずにやっていられるか!という気分だった。
「とりあえず、お話伺いますから、座ってください。ね?」
そうして彼をソファに座らせ、大事にとっておいたワインを開けたのだ。
◇
「そして、こうなった、と……」
反省している。彼の話を聞き、ほんのわずかでも情を移してしまったことを。酔っぱらった頭であのご尊顔を目の当たりにし、口説かれ、ちょっとだけその気になってしまったことを。今更ではあるが、とても反省している。だから、なにもなかったことに出来ないものだろうか?
「おはようセラフィナ」
「ひぃぃ!」
背後から聞こえてくる声は、まさに昨日拾ったエルフのそれである。ギギギ、と首を動かすと、朝陽を纏いキラキラと輝く美しい男が、ふにゃりと顔をほころばせ私を見ている。かろうじて下着だけは身に着けているが、ほぼ裸だ。美しい成人男性の裸体が、そこにある。切れ長の瞳はさらに細く、そして垂れ下がっていた。威厳とか、凛々しさからかけ離れた緩やかな笑顔。
「お……はようございま……す」
目のやり場に困りつつ何とか声を絞り出す。しかし、同時に昨日の夜の甘い囁きが蘇り、どうにも平常心ではいられない。
「美しい朝ですね。まるであなたの笑顔のようだ」
朝っぱらから何を言っているんだこの男は。誰の話か、理解できない。言っておくが、私は生粋の日本人で、顔は平たい。美人だとか可愛いだとかの部類に入るわけでもないし、なによりそこまで整った顔の御仁に言われても、嫌味にしか感じない。
しかし、マロウは本気だ。本気で言っている。痘痕も靨どころの話ではなかった。ここまでくるともはや病気! そう。彼はどんな医者でも治せない病気に罹患している真っ最中だ。
「あの、マロウさん」
「マロウ、と呼んでください」
「……マロウ」
「セラフィナ」
何を思ったか、マロウが両手を伸ばし私を抱き寄せる。マッパのマロウに抱き締められ、私はもがく。しかし、もがけばもがくほどにマロウの腕が絡みつき、力が籠る。
「昨日はあなたから抱きついてきてくれたのに、なぜ今日は逃げるのです?」
耳元で囁かれ、気が遠くなる。まずい。早くなんとかしなければ、またおかしなことになる。
「だーっ! 離れてくださいっ。あれは過ち! お酒のせいでお互いおかしくなってただけですって!」
「……過ち?」
マロウがあからさまにシュンとした顔をする。しまった、言い過ぎたか。などと一瞬後悔していると、
「嘘だろ……?」
背後から、声。振り返ると、そこにはいるはずのない兄がいた。
「お兄ちゃんっ?」
「妹が……俺のいない隙に男を連れ込んで……しかも、コスプレプレイをっ」
手で口元を抑え、とんでもないことを言いやがる。
「違うからっ!」
私はほぼ全裸のマロウに兄の服を与え、全員を椅子に座らせ、兄に事情を説明する。異世界だのエルフだのと言い出した妹を、兄はバカにするでも懼れるでもなく、何故かうんうんと素直に聞いていた。
「今や誰でも彼でも輪廻転生する時代だぞ? 異世界からエルフが来たって驚きゃしないって。てか、宇宙人じゃないんだ?」
ああ、兄もスポック推しだ。てか兄よ、普通、転生はしないからね?
「……で、マロウはこれからどうすんの? もし本当にうちの妹がそのセラフィナ?だったら、連れて行っちゃうわけ?」
「はぁっ? そんなの困る!」
私が慌てて立ち上がると、マロウは腕を組み、考え込んだ。
「そうですね、私はセラフィナを……連れて帰らねばなりませんね」
「ん~、でも俺としてはたった一人の妹を異世界に連れて行かれちゃ困るんだよねぇ」
「お兄ちゃん!」
私は感動していた。あんなにちゃらんぽらんだとばかり思っていた兄が、まともなことを言っている!
「これから先、両親の介護とかも関係してくるし、墓の問題とかさぁ、やっぱ兄妹いた方がなにかといいじゃん?」
「こらぁぁ!」
私は兄の頭をド突いた。心配してくれてるのかと思えば、とんでもない!
「セラフィナの部分だけを持ち帰るってことはできないわけ?」
頭を抑えながらマロウに訊ねる兄。マロウはそんな兄に向かって、
「どう、切り離すかがわからないのです」
と申し訳なさそうに告げる。
「あ~、そっかぁ。じゃ、聞くしかないねぇ」
当たり前のように兄が口にした。
「え?」
「は?」
私とマロウが間抜けな声を出す。と、兄が意外そうな顔で、
「ん? わかんないならわかる人に聞けばいいんだろ?」
と言ってのけた。
「だって、マロウはその、あっちの世界に行けるんだろ? だったら一旦帰って聞いてくるとか、あ、何なら俺も一緒に行こうかなっ?」
「な、なにバカなこと言ってるのよっ!」
私が止めようとするも、兄はもう目をキラキラさせている。
「そうだそうだ、行こう! ちょうど俺、週末の予定おじゃんになっちゃったし、旅行みたいなもんだろ、これ!」
ウキウキモードでマロウに訊ねる。マロウはマロウで、「わかるやつに聞けばいい」という兄のテキトーな発言に感激していた。
「とてもいい案です! そうしましょう!」
「はぁぁぁっ?」
私の悲鳴などお構いなしに、二人は準備を始めてしまう。
「ちょっとちょっと、お兄ちゃんっ?」
信じられない! といった物言いの私に向かって、兄が衝撃の言葉を放った。
「『何事にも初挑戦のときはある』……忘れたのか?」
「……それはっ、スポックの有名なセリフ!」
「そうだ。宇宙は広いんだぞ、花音。宇宙は最後のフロンティアだ。冒険の旅に出ずして、これから先、何を語ろうというんだ!」
「……お兄ちゃん」
私はこの時、馬鹿になっていた。そうとしか思えない。兄のおかしな言葉に乗せられ、スポックの名言に騙され、マロウの嬉しそうな顔に絆された。
◇
……そんなわけで私と兄は今、異世界にいる。
これから先、どんなことが待っているのかなど、わからない。
とりあえず、目の前にはゴーレムみたいな岩の塊で出来た人型のものが、私たちを追いかけてきている。さすが異世界。
……じゃないから!!
「なんでこんなことになったのよぉぉ!」
声の限り、叫ぶ。
もし、次に拾うなら、エルフではなく宇宙人がいい。
スポックとなら、冒険してもいいかもしれない。少なくとも、エルフよりはましだろう。
私は、心の中でそんなことを考えながら、異世界の草原を、全速力で駆け抜けているのである――。
終




