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15,日向より

私は、日向。

壁の角度、風の道すじ、雲のかたち――

それらすべてが偶然重なって生まれる、一瞬のあたたかさ。


私は、誰かが足をとめるのをずっと待っていた。

誰かが、そっと座ってくれるのを。

ただ、目を閉じてくれるのを。

笑ってくれるのを。


**


あなたたちがいた頃、

私はいつも足元にあった。

公園のベンチ、縁側の板の上、団地の階段の踊り場。

昼下がりの寝室の、布団の端。


あなたは何も言わずに私の中に入り、

まるで最初からそこにいたような顔をした。


私は、それがとても嬉しかった。


**


私は、あたたかさでしか語れない。

でも、あなたはそのぬくもりを“安心”と呼んでくれた。


ときに孤独の中で、

ときに愛する人と肩を並べて、

ときにペットと丸くなって、

あなたは私のなかで、呼吸を整えてくれた。


**


いま――

私の上には、誰もいない。


日差しは変わらず届いている。

雲が流れ、影が動き、風が抜けていく。


だけど私に、身を預ける人はいない。

毛布を干す手も、笑い声も、昼寝の寝息もない。


**


それでも私は、そこに在る。

陽だまりというかたちで。

地面の上、ベンチの上、石のあいだに。

ひとりぼっちでも、私は消えない。


なぜなら私は――

あなたが最後に「生きていてよかった」と思ってくれた場所かもしれないから。


**


そして、いつかもしも、

誰かがまたこの世界に現れたとき。


私は、その人の足元に、そっとあたたかさを広げる。


言葉もなく、

ただ「おかえり」と、あたたかく言いたくて。


私は、日向。

世界が忘れても、

あなたの心が覚えてくれている場所。


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