表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/16

12,記憶の輪郭 - 地球が見る夢

まるで地球が夢を見るように、やさしく。


それは風だったのかもしれない。

あるいは光。

あるいは、誰もいない都市の隅に落ちていた、

子どもが描いたクレヨンの絵。


音もなく動く雲の影が、

誰かの思い出の上を静かに横切っていった。


**


人がいなくなっても、

世界のどこかには、“人という存在の輪郭”が、まだ残っていた。


それはストローに残った歯型かもしれない。

押し花になったノートのページかもしれない。

遊園地のベンチに彫られたふたりの名前かもしれない。


それらは、誰に伝えるでもなく、

それでも確かに、世界のなかで生きていた。


地球は、

それらすべてを夢の中でなぞるように、

静かに“思い出して”いた。


**


ひとりの声が、風のなかで形を持つ。


「あなたに出会えてよかった」


どこかの部屋で残響のように繰り返され、

けれど誰にも届かず、

それでも、確かに世界の“色”を変えた。


他にもあった。


「まだ生きてる?」

「帰りを待ってるよ」

「今日も空がきれいだったね」

「ごめんね」

「ありがとう」

「さようなら」


それらは、もう“誰のもの”でもなかった。

追悼は、“世界全体のもの”になっていた。


**


言葉が声を失っても、

感情は記憶の中に息をしていた。


目に見えない涙のあとは、

空気の匂いに混じっていった。


笑い声の残像が、

ベランダのカーテンを揺らしていた。


そのどれもが、世界の“肌”の一部になっていた。


**


地球は夢を見ていた。

自分の表面を歩いた命たちの、

数えきれない言葉と、まなざしと、

名前にならなかった感情たちを、

風景として、呼吸として、

もう一度、思い出していた。


**


そしてその夢は、

やがて、“誰”かに継がれるかもしれない。


それは"誰"か…

それは、まだ遠い、次の章で語られることになるだろう。


けれど今はまだ、

世界は夢を見ている。


人類という名の物語が、

確かにここにあったということを、

ひとつひとつ思い返しながら。


それはまるで、

永遠に続くまばたきのようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ