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3 エディリアーナ様にご挨拶

 ハーレムのメンバーだが、第1夫人から第5夫人までは帝国内の上級貴族から輿入れしてきたお嬢様達、第6夫人から後は平和協定のために人質として嫁いできた王女や上級貴族のお嬢様という構成だ。現段階では誰も妊娠していないが母親の身分や産まれた順番に関係なく力のある男子が次期皇帝となるらしい。


 正妃も寵妃も決まっていないため今は第1夫人から順番にジェスレーン様がお渡りになる。当日に生理が重なったり、体調が悪くてお相手ができなかったりする日はジェスレーン様が好きな場所へ行くようになっているそうだ。侍女さんたちの話によるとそういう日のジェスレーン様は妻たちの部屋には行かずに自室で過ごしているとの事だった。



「アリシャ様! 今すぐお着換えを!」

「リィナ、そんなに慌ててどうしたの?」


 今日は昼過ぎに起床したあとは本を読んでいた。食事とお風呂の時間以外はずっと読書だ。ここまで自由に過ごしたのは初めてだったから背徳感が凄い。前世の社畜精神とアリシャの勉強三昧の日々が記憶にあるせいだと思うけど、働かずに自由に好きなことだけやるというのは意外とストレスが溜まるという事を知った。この生活、慣れることができるか不安になってきた……


「皇帝陛下がお渡りになるそうです!」

「なんですって!?」


 リィナの指示で侍女さんたちが私の着替え、部屋の掃除、ベッドメイクを瞬く間に済ませていく。そして、ベッドサイドテーブルにはジェスレーン様のためのお酒と普通の水差しがセッティングされた。例の媚薬が置かれていないことに気づいた私はコッソリと胸をなでおろす。


「今日はエディリアーナ様の日ではないの?」

「それが、今日は体調不良で……」


 第一夫人のエディリアーナ様は帝国で筆頭といわれるほどの権力を持つ上級貴族から嫁いできた女性だ。残念ながら今夜は体調が優れないらしい。今さらだけど他の妻にまで体調とか生理の情報が筒抜けになるのは嫌だなぁ……


「ジェスレーン様ってこういう日は自室でお過ごしになるのではなかったの?」

「今まではそうだったようです。だからこそ、この騒ぎです」


 リィナにだけ聞こえるような声で問いかけてみると今が異常事態であることが分かった。


「明日の午前中にはエディリアーナ様にご挨拶に行くのよ? これって大丈夫なのかしら……?」

「あまり良い状況とは言えません。もしかしたら必要以上に敵対視されるかもしれません」


 詰んだ。

 アリシャの読書三昧な人妻ライフ終了のお知らせだ。


「とにかく、皇帝陛下が間もなく到着されます」

「……頑張るわ」


 急ピッチで準備が整えられて、侍女さんたちが部屋を出ていった直後にジェスレーン様が到着した。昨晩と同じようにゆったりとした服に身を包んでいるけど大きく開いた胸元からは鍛え上げられた肉体が惜しげもなく晒されている。露出しているのはジェスレーン様なのに……見ているこっちが恥ずかしい。


「急なことですまぬ」

「とんでもございません。ありがたき幸せにございます」


 ジェスレーン様は私の肩を抱き「行こう」と言いながら移動を始めた。気づいたらベッドインさせられていた。


「アリシャ、前世とやらについて詳しく話してくれぬか?」

「えっ?」


 突然の事で間抜けな声が出た。

 本当なら「前世、とはどういうことでしょうか?」とか「何を仰っているのか、わかりかねます」とか言ってごまかすべきだったのに。


「ジェスレーン様、前世とは、どういうことでしょうか?」


 遅いかもしれないけど全力で顔を作ってとぼけてみた。


「昨晩、そなたが話してくれただろう? 会社とやらで働きすぎて倒れたあと、アリシャになっていたと。いや、アリシャが『前世』を思い出したのだったか」

「あわわわわ」

「落ち着け。特に何かを疑っているわけではない。気になることがあったから詳しい話を聞きたいのだ」


 大きな手でポフポフと頭を撫でられて少しだけ落ち着きを取り戻した。ジェスレーン様に話を聞いてみると、媚薬で酩酊状態になった私は事後のピロートークで転生したこと、脳内お花畑嬢も転生していること、その令嬢は前世で遊んでいたゲームに転生したと思い込んでおりジェスレーン様を狙っていること、しかし私が転生したせいで計画が台無しになったと思っていることなどを喋ってしまったらしい。


 え……怖っ……

 あの媚薬、自白剤でも入ってたの……?


「私はそのゲームとやらをやったことがないので、なんとも言えないのですけれど……彼女が言うには、私は後宮内の女性たちと揉め事を起こして追い出されるそうです。そして、第一王子の友人である彼女がイメラ王国を代表して謝罪をするために帝国に訪れてジェスレーン様に気に入られて正妃になると言っていたような気がします」 

「脅威になるかと思ったが放っておいて良さそうだな」

「そうですねぇ……背後に誰かつかない限り、彼女では謀略を張り巡らすような事は出来ないでしょう。第二王子が次期国王に内定するのも時間の問題でしょうし、放置で良いかと」


 国民への愛も、第一王子への愛もない彼女では王妃教育に耐えられるわけがない。そのうち逆ハーレムのメンバーの誰かと駆け落ちでもするんじゃないかな。


「エディリアーナにも話してみたのだ。そうしたら今夜はアリシャのところに行って詳しい話を聞いてくるようにと言われたのでな」

「そうだったのですか……」


 その一言で分かってしまった。

 エディリアーナ様は正妃候補なのだろう。国のことを一番に思っているからこそ、ジェスレーン様を私の元に送り出したんだ。


「エディリアーナ様とは仲良くなれそうな気が致します」

「奇遇だな。エディリアーナもそう言っていたぞ」


 2日連続でジェスレーン様が来たせいで大変なことになるかもしれないと思ったけど、なんとかなりそうだ。そして私は正気を保った状態という意味での『初夜』を過ごした。ちゃんと朝に起きられるぐらいには手加減してもらえて本当に良かった。




――翌日。


「イメラ王国から参りました。アリシャと申します」


 エディリアーナ様は燃えるような赤い髪が印象的な美女だった。皇女だと言われたら信じてしまいそうなほどの気品があって、思わず膝をついてしまいそうになった。対する私は金髪で青い瞳をしていて、前世を思い出したときは悪役令嬢らしい縦ドリルという髪型だったがドリル髪を作るのが面倒なので今は夜会巻きのようにスッキリとした髪型を楽しんでいる。


「ようこそ。詳しい話はジェスレーン様から聞いているわ。楽にしてちょうだい」

「ありがとうございます」


 挨拶をするとエディリアーナ様が人払いをした。侍女さん達が隣室へと移動をしたのでいきなり二人きりになってしまったけど、私の情報は伝わっているようなので平静を装ってソファに腰を下ろす。


「私は人質として後宮入りをしたので正妃を目指すことはありません。エディリアーナ様の派閥に加えて頂きたいと考えております」


 前世のことまで知られているので腹の探り合いをする必要はない。とりあえず自分の立ち位置を理解していること、派閥に入りたいことを伝えるとエディリアーナ様は優しく微笑んでくれた。


「ふふ……頼もしい味方ができたわね。私は帝国のために正妃を目指しているの。あなたが母国で置かれていた状況と少し似ているわね」


 私が生まれたときに殿下との婚約が結ばれたせいか、恋というものを知らずにここまで来てしまった。決められた相手だから、王家と我が家との婚約だから、この婚約に自分の気持ちは関係ないのだと思っていた。だから私はイメラ王国と国民のために努力を続けてきた。


 エディリアーナ様も同じだったのだろうか。ジェスレーン様でさえ10人の妻がいる。母親の身分に関係なく力の強い者が皇帝となるのであれば、先代の皇帝から代替わりをする前の後継者は数え切れないほどいたはずだ。特定の人物の妻ではなく『皇帝になった男』の妻、正妃となるためだけに幼少の頃から様々な教育をされてきたのだろう。


「そうですね……王国のため、帝国のためという部分が似ています。でも、私はここで読書三昧の人妻ライフを楽しもうと思っておりますので、エディリアーナ様と似ていると言うのは何だか申し訳ない気が致しますね」


 ほほほ、と明るい声で笑ってくれたので緊張が解れてきた。昨日の夜にジェスレーン様が訪れたときはどうしようかと思ったけど、エディリアーナ様が話しやすい人で本当に良かった。


「アリシャ様にこちらを差し上げるわ」

「まぁ……綺麗だわ……」


 手渡された箱にはハイビスカスのような真っ赤な花を模した髪飾りが入っていた。


「私専用の紋章のようなものね。これで明日からの挨拶周りがスムーズになるでしょう」

「お気遣いいただきありがとうございます。大切に致します」


 エディリアーナ様から頂いた装飾品、これは彼女が後宮内で私の後ろ盾になったことを意味する。


「お茶が冷めてしまったわね。新しく淹れなおしましょう」


 それからは隣室に移動した侍女さん達を呼び戻し、お茶やお菓子を頂きながら他愛もないお喋りを楽しんでから解散になった。


 翌日からの挨拶周りは大きな問題もなく無事に終了したことは言うまでもないだろう。



一夫多妻制のことをハーレム、アリシャ達が住んでいる建物を後宮という呼び名で使い分けています。

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