花
あいつから手紙が来た。丁寧な字だ。
――今日の昼、海に来てね。授業なんてサボって僕一番に。君に僕の事、教えてあげる。
「あ、来たね。こっちこっち!」
何だかよそよそしい。いつも通りに振る舞えよ。
海の近くだからか風が吹いていた。
「何故入口なんだ。海はもう少し奥だろ。」
「うん。君にね。見せたかったんだ。ここの海に繋がる庭。綺麗だから。」
ふふっと鼻で笑う。
「君のことだから、花なんか見ないで海に来るでしょ?」
そう言って庭へと歩む。
「ほら、綺麗だろ?」
「……そうか。」
花はただの植物だ。綺麗だなんて思ったこと無い。
「……僕の事だね。僕、そんなに君が僕のこと知りたいだなんて思わなかったよ。」
ははっと笑う。花を背景にその場に立ち止まる。少し、綺麗だと思ってしまった。
「僕ね、もう、もう嫌なんだ。」
風は涙を運ぶ。
「全部嫌い。教師も、生徒も、親も、」
「君も。」
声を震わさせ、必死に言葉を使う。
「いつも、いつも、ヘラヘラしてる?してるのはそっちだよ。皆んなの期待に応えて、笑顔で振り向いて、」
「……な、」
君の服を握る。今君はどんな顔してる?
「そんなの君はできる?」
「……わ、分から」
「ねぇ、」
目が合う。完璧な顔がぐしゃぐしゃだ。
「ねえ、フロース。」
「……!」
へへっと無理矢理笑顔を作る。
「君の名前。一度も言ってなかったね。」
「お、お前は」
フロースの手を引っ張る。今は何も言わないで。君の意見か聞きたくない。僕は君が嫌いだから。
「ほら、ついたよ。海。綺麗だね。」
「……、まさかっ。」
君の手を離す。キラキラと反射する宝石へ歩く。
「ねぇ、可笑しいと思わない?ここ、海で囲まれてる。きっと逃げられないためだよ。」
知ってる。可笑しいなんてとっくのとうに。それより、
「待て、待ってよ。何でっ、そんな」
「来ないで。君が溺れちゃう。」
波が高ぶり、うまく立てない。
「フロース。君、僕のこと嫌いじゃないの。何でとめるの。君はまだやりたい事があるんじゃないの。」
涙が光る。海よりも綺麗だ。そして海の一部となる。
「……。」
「君、優しいね。僕、君に、フロースに嫌いって言ったんだよ。もう後戻りできない。」
過去は消えない。皆知ってる事だ。人を笑わせた事も、過ちを犯した事も、明日でいいやとずっと思っている事も、言葉の難しさも、皆知ってる。
「じゃあね。最後にフロースに会えてよかったよ。」
「……待って。」
さっきより言葉が弱まる。
「ありがとうね。」
ここまでお読みいただきありがとうございます。物語としてはここで終わりですが、次の話も少しだけ書くつもりなので、お読みいただけるとフゥー⤴︎と作者が喜びます。