表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パスファインダー  作者: イガゴヨウ
第三章
76/80

第四十二話

システルはそう言ってから、ブリジットの方を見た。


「転送魔法で、この船から脱出した人について。何か、知ってる?」


ブリジットは、短く首を振った。


「いや。特に何も聞いていない。脱出した者たちも知らない」


その答えを聞くと、システルはすぐに視線を外し、結界の作業を続けている人たちの方へ歩み寄った。

そして、その場にいる全員に届くよう、大きな声で問いかける。


「どなたか、転送魔法で脱出した人について、何か知っている方はいませんか?」


一瞬、音が消えたように感じた。


皆、まだ外の脱出ポッドの光景から抜け出せていない。

虚ろな目で、ゆっくりとシステルを見る。

そして、互いに顔を見合わせる。


誰も、何も言わない――

そう思った、その時だった。


フロアの一番端。

遠くにいた一人の女性が、ためらうように、ゆっくりと手を上げた。


「……わたしたち、魔法で逃げようとしたんだけど」


声は、かすれていた。


「逃げられなかったわ」


まだあどけなさの残る顔。

蒼白で、唇の色がない。

その背後には、同じ女子学生らしき数名が、身を寄せ合うように立っていた。


システルが、すぐに問い返す。


「逃げられなかったって……どういうこと?」


彼女は、小さく首を振る。


「わたしにも、よくわからないの。魔法はちゃんと発動したし、この船を離れた感覚もあった。でも……気づいたら、同じ場所に戻ってた」


その言葉を合図にしたかのように、あちこちから声が上がる。


「……私も、同じだわ」

「発動はした。でも、結果は何も変わらなかった」


胸の奥が、冷たくなった。


じゃあ――

魔法では、ここから逃げられない?


なら、どうすればいい。


システルは、女性を見たまま、重ねて聞いた。


「戻っていた……?」


彼女は、小さくうなずく。


「本当に、そんな感じ。魔法が終わって、周りを見たら、元の場所に立ってた。ここにいる、同じ学校の人たちも……みんな」


システルは、さらに踏み込む。


「何かに、引き戻された感覚は?」


女性は、はっきりと首を振った。


「いいえ。妨害されてる感じは、何もなかったわ。ほんとに……最初から、移動してなかったみたいな」


その時、別の方向から声がした。


「私の場合は、ぐるっと一周して戻ってきた感じだったわ。ループしたみたいに」


さらに、別の声。


「そうです。行って、戻ってきた……そんな感覚でした」


それを聞いたシステルは、口元に手を当て、深く考え込む。


かすかな呟きが、漏れた。


「行って戻ってきた……ループ……。

だったら、あれって……比喩みたいじゃない……?」


そして何かに気づいたように、彼女の目が見開かれる。


「じゃあ……あそこに見える、あのおかしな船は……。でも、まさか……」


言葉が、途切れる。


「……だけど、どこにもいないことは説明できる。微かに動いていたことも……」


信じられない、と言うように、首を振る。


「……どうして」


そう呟くと、システルは一度、大きく息を吸い込んだ。

そして、ブリジットの方を向く。


「あなた。この船のブリッジで、貨物室のあいつの様子を見ていた時……他に誰か、いた?」


ブリジットは少し考えるそぶりを見せてから、答えた。


「いや、私だけだ。一緒にいた船員は、後ろから見ようと思えば見られたかもしれんが……」


システルは、小さくうなずくと、続けて尋ねる。


「貨物室のあいつの詳しい様子……使っていた魔法とか、誰かに伝えた?」


ブリジットは即座に首を振った。


「いいや。他の者に伝えたのは、あの老人の“位置”だけだ。あの上に物資を落とす予定だったからな」


そう言って、

――それはお前の指示だろ、と言うように。

ブリジットは、ほんのわずかに笑みを向けた。


システルは、


「……そう」


とだけ答える。


短い沈黙。


再び、大きく息を吸い込むと、彼女はフロア全体――

いや、ここにいる僕たち一人一人を、見渡すように視線を巡らせた。


そして、問いを投げる。


「あなたたち……いえ、あなた」


その視線が、ある一点に定まる。


「どうして、廊下で私に“鏡を持ってくるように”言ったの?」


一拍。


「それに……なぜ、あいつが広範囲の解除魔法を使うことを、知っていたの?」


僕は、システルの視線の先を追った。


そこに立っていたのは――

このフロアで、位相のずれを起こしている人々の中で、

唯一、異なるずれを起こしてる人物。


鷹司だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ