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パスファインダー  作者: イガゴヨウ
第三章
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第四十一話

限界まで魔晶石を使って。

可能な限りの魔力をつぎ込めば――もしかしたら。


システルの転送魔法なら、この得体の知れない空間の魔の手を振り切って、どこでもいい、どこかの世界に逃げられるかもしれない。


僕の言葉に、システルは何も答えなかった。

ただ、じっと僕を見つめている。


その視線に、僕は耐えきれなくなって、思わず声を張り上げた。


「システルだって、もうわかってるんでしょ。

 たぶん、僕たちは何かの魔法に囚われてる。

 今、見えてるこの光景は――その魔法が、見せてるものだよ」


そう言いながら、頭の片隅に、少し前に思い出した記録がよぎっていた。

昔、読んだことのある、次光船の遭難事故の事例集。


ほとんどの事故は、捜索によって、無残な姿になった次光船が発見されている。

けれど、その中に――たった一件だけ。


船そのものが、どこにも見つからなかった事故があった。


僕は直感的に思う。

今の僕たちは、その事故と、同じ場所に立たされている。


そして、その記録には、こう書かれていた。


――生存者は脱出ポッドに乗った一名のみ。


でも、今、目の前にある脱出ポッドの有様を見れば、とても使えるとは思えない。

朽ちて、歪んで、長い時間に晒された残骸。


だから、賭けるしかない。

魔法で、逃げる。


それでも、システルは口を開かない。

険しい表情のまま、何かを必死に考えている。

……迷っているんだ。


僕は、構わず言葉を重ねた。


「システルも言ってたでしょ。やばいって。

 僕もそう思う。

 たぶん、あいつが軽くなってるのは、魔法の発動が終わりかけてるからだ」


胸の奥が、一度ドクンと鳴った。


「終わったら、きっともっと良くないことが起こる。

 その前に、急いでここを離れないと」


それでも、彼女は答えない。

瞳を左右に動かし、考え込む仕草を見せる。


その瞬間――僕は、ある違和感に気づいた。


「……エラーラ先生は?」


思わず、口をついて出た。


「どうしたの?

 なんで、姿を見せないの?」


船室を出てから。

貨物室で、システルのスマホ越しに声は聞いた。

でも――姿は、一度も見ていない。


最初は、あいつを閉じ込めるために、どこかで動いているんだと思っていた。

けれど、結界が完成して、状況が落ち着いても、先生は現れない。


あの人なら、真っ先に飛んできて、生徒たちの無事を確認して。

そのあと、貨物室での単独行動について、システルに雷を落としていてもおかしくない。


なのに――何もない。

連絡も、ない。


おかしい。


……いや、待て。


先生の姿って、船室を出てからどころか――

この船に乗ってから、見たか?


乗船許可が下りたと伝えに来た、あの時以降。

一度も、姿を見ていない気がする。


「システル……先生と、連絡、取れてる?」


彼女は何か言いかけて、すぐに口をつぐんだ。


その沈黙を見た瞬間、胸の奥から、苛立ちと、そして――

今まで感じたことのない、恐怖が込み上げてきた。


僕は、思わず叫ぶ。


「すぐ脱出しよう」


それでも、システルには、まだ迷いが残っているみたいだった。


その理由はわかっている。

僕たちが転送魔法で逃げれば――ここにいる大半の人を、置き去りにすることになる。


正直に言って、システル一人ですら、逃げ切れるかどうかわからない。

随伴者を連れていく余裕なんて、あるはずがない。


この船にいる、ほかの転送魔法が使える者たちも、同じだろう。

何百人もの人間を救うなんて、不可能だ。


だけど。


僕は、システルの使い魔だ。

どんな状況であっても、彼女の命を守る。


それが、大勢を見殺しにする選択だったとしても。


それが、使い魔である僕の誓い。

いや――願いだ。


僕は、システルの返事を待たず、頭の中で座標の策定を始める。


どこか。

どこでもいい。

彼女だけでも、壁の向こうへ。


そして、ちらりとニケに視線を送った。


彼女も、こちらを見返してくる。

きっと、僕の考えを理解したんだ。


もし、魔晶石の魔力だけで足りなければ。

彼女の魔力も使って――それで、なんとか。


そのとき。


システルの、澄んだ声が、周囲に響いた。


「待って」

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