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パスファインダー  作者: イガゴヨウ
第一章 プロローグ
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第六話

それを聞いた俺は、喉まで出かかっていた断りの言葉を飲み込んだ。カンティークルの木——現在、道が繋がり行き来できる全世界の中でたった1本しか存在が確認されていない、その木の存在を彼らは主張してきた。


にわかには信じ難い話だったが、彼らは自分たちの言葉の証として一つの動画を見せてきた。それに映し出された木は、確認されているものと同様、巨大で、無数の枝が空へと複雑に絡み合いながら広がっていき、生い茂る葉は風を受けると虹色に輝いていた。


外見は確かによく似ている。


もしこれが本物なら、この後にある変化が現れるはず——俺は目を凝らしてそれを待った。


すると予想もしない光景が広がり始める。突然、木の一点が強い熱を帯びたように燃え出し、炎はまたたく間に全体へと広がっていく。真っ赤な炎に包まれた木は、まるで苦しむかのように激しく枝を揺らした後、崩れ落ちるように焼け落ちた。


残されたのは細かな灰のみ。それが風に乗って空へ散っていく。しかししばらくすると、この木は何事もなかったかのように元の場所にうっすらと姿を現し、完全な姿を取り戻した。


俺は戸惑いを隠せなかった。既知のカンティークルの木は確かに消滅と出現を繰り返すが、このように燃え上がることはない。ただ徐々に透明になって消えていくだけだ。


俺の様子を見て、彼らの一人が口を開いた。

「あなたの知っているものとは少し違うかもしれません。しかし、これは間違いなくカンティークルの木です」


確かに、燃え落ちて消滅する以外は、以前見た映像とよく似てはいる。俺は、もう一度注意深く動画を観察すると、木の傍らに人影が写っていることに気付いた。木と人物を比較すると、知っているカンティークルの木より、この木は一回り小さく感じられた。そして、驚くべきことに、木が再び燃え出しても、その人物は慌てた様子もなく、逃げ出そうともしない。


俺の不信感を察したのか、彼らは付け加えた。

「あの火は不思議なことに、まったく熱くないのです」


俺は考え込んだ。これがフェイク動画でないという保証はどこにもない。彼らを探るように見ると、その瞳からは、俺がある問いの答えをずっと追い求めてきたことを知っているかのような視線が返ってきた。


現存するカンティークルの木は、この全世界のすべてを知る存在とされ、神にも等しいと信じられている。もし神託を受けることができれば、一国をも手中に収められるほどの力を得られるという。そのため、木は神殿の奥深く神官たちに厳重に管理され、一般人が近づくことは許されていない。


もし俺がその木に問うことができれば、求めてきた答えを得られるかもしれない——。そんな思いが頭をよぎる中、彼らは「討伐軍が送られるまでまだ時間がある。ゆっくり考えてほしい」と言い残し、連絡先を渡して立ち去っていった。


俺は再びAIに命じ、第18層世界の詳細を表示させた。


ホログラムが切り替わり詳細画面が現れたが、その結果に落胆した。カンティークルの木どころか、彼らの国の情報すら見当たらない。表示されているのは次光船の港がある国の情報ばかりだった。


その国は最近目覚ましい発展を遂げているようだが、港ができたばかりの頃はここも中世のような状態だったらしい。そしてこの世界には他に10カ国ほどが存在しているとだけ記されていた。


付属資料には、おそらくこの世界が発見された時に探査機が撮影したと思われる衛星写真があった。解像度は低く不鮮明で、表示される地名も港がある国の街と、別の国の首都と思われる2、3点が示されているだけだ。


画像を手でスワイプさせながら目的の場所を探し、小一時間ほどかけてようやく彼らの話と一致しそうな場所を見つけ出すことができた。港のはるか北方、海を越えた大陸に、中央を大きな川が流れる広大な森が広がっている。森の南側には、海とその森の間に東西に細長く続く平原が見える。


画像がぼやけていて詳細は判然としないが、きっと彼らの国はこの付近に存在するのだろう。


時刻を確認すると、まだそれほど遅い時間ではなかった。明日にしようかと一瞬迷ったが、気持ちを抑えきれず電話をかけた。


何度かの呼び出し音の後、相手が応答する。

「珍しいな、どうした?」

少し酒が回っているような口調だった。


当時、第18層世界へツアーで幾度も訪れていた彼に、今日会った二人のことを包み隠さず話した。


一瞬の沈黙の後、彼は答えた。その国へは行ったことはなく、国名すら聞いたことがないという。自分が訪れたのは港がある国の国内のみで、他国は未だ閉鎖的、他世界からの訪問者を積極的に受け入れていない。入国は困難を極めるとのことだった。


そして、通話を切る直前、思い出したように付け加えた。

「カンティークルの木かはわからないが、この世界に不思議な木があるという噂は聞いたことがある。ただ——俺ならやめておくな」


会話を終えると、応対用のソファーに腰を下ろし、ホログラムを見上げた。まだ森を上空から映した写真が映し出されている。俺は、その写真を見ながら、頭を整理しようと、ゆっくりと目を閉じた。


ガサガサという音で意識が戻る。気がつけば、そのまま眠り込んでしまっていたようだ。どれくらいの時が経ったのだろう。


再び、何かを箱に詰め込むような音が聞こえてくる。


エルドが戻ってきたのだろうか。まどろむ中、目を瞑ったまま声をかける。

「エルドか?戻ってきたのか?」


返事はない。もう一度声をかける。

「おい、どうした?何かあったのか?」


依然として返事はない。


目を開けて周囲を見回すと、ホログラムは消え、室内は暗闇に包まれていた。いくつかの待機ランプが点灯しているのが見える。


最後にもう一度声をかけるが、静寂が支配するばかりだった。そして、いつの間にか、ガサガサという音も止んでいた。


不審に思いつつも、抗いがたい眠気が押し寄せてきて、まぶたが徐々に閉じていく。意識の奥にわずかな違和感を残したまま、俺は深い眠りへと落ちていった。


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