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パスファインダー  作者: イガゴヨウ
第三章
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第二十三話

システルがあいつの言葉に涼しい顔で答える。


それに――あいつの表情が、微かに動いた。

唇の端が、不敵に、ほんの少しだけ上る。

そして、足音ひとつ立てず、ゆっくりと入ってきた扉のほうへ後ずさりを始めた。

そのまま、背後――僕たちの後ろ、このフロアの奥をじっと見渡しながら。


その仕草に、僕はぞくりとした。


……何だ、今の動きは。


あいつ、まさか――。


胸の奥で、嫌な確信が芽を出す。

気づいているのか?

このフロアに、息をひそめて潜んでいる“魔女たち”の存在に。


だが、どうやって?

僕の探知魔法でも、彼女たちの気配は完全に消えている。

音も、気流も、魔力の揺らぎすら掴めない。

それなのに――あいつの目は、まるで彼女たちの存在を知っているように動いていた。


あいつが僕よりもずっと強力な魔法を持っている。その可能性は十分考えられる。

だけど、貨物室でのあのとき、あいつは姿を隠している者の位置を正確には掴めていないように見えた。


動かなければ、感知できないはずだ。

それなのに、今のは……。


――あ。


脳裏を稲妻のように閃いた。

そうだ。

このフロアの魔女たちが“透明化”と“隠密化”の魔法をかけたのは、あいつがこのフロアに到達してからだ。

つまり、その前。

あいつはここに踏み込んだ瞬間に――この場所を探知していたんだ。


到達の一瞬で、全体を把握した。

しまった。僕たちは遅かったんだ。


正確な位置までは分からないにせよ、このフロアに複数の魔女が潜んでいることは、もう知られている。


まずい……伝えないと。

僕は、システルの耳元に口を寄せた――そして、感じた。


システルから伝わってきていた感覚が変わった。ふっと微かに緩んだ感覚。


――安堵だ。


きっと、彼女は気づいていない。

あいつの後ずさりと視線の意味を、気づいていない。

ただ、時間を得られたことに安堵している。


彼女がどんな筋書きを描いているのかはわからないけど——もしかすると誤った判断を下そうとしているのかもしれない。

僕はすぐに口を開こうとした。そのとき——


「ニケ、あなたはブリジットたちと一緒に行って。でも……ここのシールドは、残しておいて」

システルは表情を変えず、あいつをまっすぐ見据えたまま、僕たちにしか届かないほどの小さな声で囁いた。


その言葉にニケが顔を上げた。

その瞳に、ためらいが走る。伝わってくるのは、戸惑いと、不安。


シールドを残しても、離れた場所からの修復は難しい。それは、防御魔法が専門じゃない僕でもわかる。

もし、あいつが気を変えて僕たちを攻撃してきたら——今あるシールドなんて、きっと、あっという間に壊されてしまう。


さっきのあいつの様子を考えると、今ニケがここを離れるのは、いい判断には思えない。

そもそも、なぜニケがブリジットたちと一緒に行く必要があるんだろう。

やっぱり、システルは——あいつが、ここに魔女が潜んでいると察していることに、気づいていないんだ。


すぐに知らせないと。

僕は再び、システルの耳元に口を近づけようとした。そのとき——


「アル、あんたもよ」


……えっ? 僕も?


不意にかけられた声に戸惑いながら、僕は彼女の視線を追った。

ブリジットたちの肩を借りて、ゆっくりと壁際を移動している女性——その姿をちらりと見やりながら、システルは続けた。


「彼女の怪我は、見た目よりずっと重いわ。ちゃんと治療を受けてからじゃないと、上のフロアには行けない。船首のエレベーターも——さっきの爆発で止まってるはずよ」


システルは、あいつを見据えたまま、何事もなかったように静かに続ける。


「うまくいくと思うけど……あんたの能力で、もしあいつの動きに不自然さを感じたら、すぐブリジットたちに知らせて。

 あとの判断は任せるわ。あなたたちの力で、ここに残る人たちを守って」


僕はニケと視線を交わした。不安と疑問が交錯する中、僕はためらいながら口を開く。


「……システルは、どうするの?」


「私は、大丈夫」

そう答えた彼女は、ほんの一瞬、左手首のブレスレットに視線を落とした。


僕の目に映ったブレスレットは、起動状態を示すように、外周を高速で光が駆けていた。

たぶんシステルは、あのブレスレットに登録した魔法を使って、自分を守るつもりなのだろう。

となると——さっき彼女が小さくつぶやいていた、テレポートか?


あの魔法は、移動距離こそ十メートル程度に限られているけど、上か下のフロア程度なら、ほんの一瞬で逃げられるはずだ。

あいつは、貨物室でも——そして今も——システルのブレスレットが魔法の発動トリガーになっていることに、まだ気づいていない。


それに、ブリジットの能力もある。一瞬でも、あいつの動きが早く見えれば、反応できる時間はあるはずだ。


……とはいえ、絶対に大丈夫だという保証なんて、どこにもない。

テレポートで逃げられたとしても、すぐにあいつが追ってくる可能性だって十分ある。


それに——あいつは。


「あいつは、きっと気づいている——」


その続きを言おうとした瞬間。

システルが、それを遮るように、あいつをまっすぐ見据えて言った。


「今から取引の準備を始めるわ」

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