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パスファインダー  作者: イガゴヨウ
第二章
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第二十五話

僕たちの世界から第43層世界までは、船なら通常、四日ほどかかる。

でも、今回はちょっと違う。案内してくれた船員が、笑いながら言っていた。


「明日の午後には着くよ。揺れるから、薬、飲んでおいたほうがいいぞ」


どうやら、いつもは使わない不安定な航路を使ったりして、最短ルートで目的地に向かうらしい。

それを聞いて、さっきシステルが酔い止めを飲んでいたけれど、彼女が急に眠たくなったのは――たぶん、その薬のせいだ。


さてと、ご主人様も眠りに落ちたことだし、僕も寝ようとベッドに足をかけたときだった。

目に飛び込んできたのは、すやすやと寝息を立てる彼女の寝顔と、枕元に置かれた杖。


その瞬間、ぱっと何かがひらめいた。


息を大きく吸い込み、目を閉じた。


――そうか。


今、浮かんだこれは、ずっと胸の奥に燻っていた疑問の“最初のピース”だ。

たぶん、これが小さなきっかけになる。そんな気がした。


──あの日の午後。


すべては、あそこから始まっていた。


昼休みの終わり。

東屋で過ごしていた僕たちは、急いで校舎へ戻ろうとしていた。


そのとき、彼女は制服の“杖用のポケット”を確かめていた。


あのとき、てっきり僕は、どこかで杖を落としていないか確かめているのだと思った。

でも――違うんじゃないか。


あれは、“杖をちゃんとしまったか”の確認だったんじゃないのか。


つまり、彼女は昼休みのどこかで杖を取り出して魔法を使った……と?


僕は彼女の記憶を覗き込むように、その寝顔をじっと見つめる。

自分の記憶の中に、あの昼休み、システルが魔法を使った場面は……どこにもない。


昼休みの後半、僕が目を覚ましたとき彼女は眠ってた。それは絶対に間違いない。


でも、前半はどうだった?


僕は東屋に着いて昼食を取ると、すぐにものすごい睡魔に襲われて眠りに落ちてしまった――そのとき、彼女は?


起きてた? それとも……もう寝てた?

どっちだった?


必死に記憶をたぐってみるけど、靄がかかったみたいに曖昧で、どうしても輪郭がつかめない。


詰まった思考を押し広げるように、ニケの顔が頭に浮かんできた。

──そうだ、ニケは何をしていたっけ?


たしか、蝶を追いかけてどこかへ行ってしまったけれど校舎に戻るときは一緒だった。

ってことは、昼休みのどこかで、彼女は東屋の僕たちのところに戻ってきたってことじゃないのか。


でも、僕には彼女が戻ってきたという記憶もない。それは、たぶん僕が眠っていたからだ。


システルは――きっと、起きてたんだ。


その時、何かが起こり、システルは魔法を使った。

それで彼女たちに共通の認識ができた。そして話を合わせた。


……ぞくり、と鳥肌が立つ。


もう一度、深く息を吸い込んだ。


おかしなことが起こり始めたのは午後になってからだ。

それを思えば、この推測、まんざら外れてない気がする。


けれど──


もし本当に何かがあったとしたら、それは一体なんだろう?

そしてシステルは、どんな魔法を使った?

なぜ、僕にそれを言わない? いや……隠している?


待てよ──あの東屋に、魔法を使った痕跡なんて……あったか?


僕は記憶の底を探るように、意識を静かに沈めた。


……駄目だ。思い出せない。


あのときは特に注意を払ってたわけじゃないし、あそこは野生化した魔法薬用の草が生い茂っていて、そいつらの放つ魔力が感覚を鈍らせる。


小さく、ため息をついた。


結局、僕の考えが当たっていたとしても、分かったのはほんの断片。

望遠鏡や鏡の謎も解けていないし、胸の奥にあるこの違和感には、まだ影すら触れられていない。


僕がそんな思考の迷路に入り込んでいた、そのとき――


不意に、システルの杖の先端が、かすかに光った。


それを見た瞬間、胸の奥がふっと緩む。


きっと今、彼女は夢を見ている。

この反応は――夢の中の彼女の心に、杖が共鳴した証だ。


彼女はいまどんな夢を見ているんだろう。

良い夢であってほしい、と思った。


そのとき、鋭い視線を感じた。

振り返ると、まだ段ボールの上に乗っていたニケが、じっと僕を見つめている。


「ん?」と小さく声を出してみたが、彼女は何も言わない。

ただ、鋭い瞳で、僕の心をまっすぐに覗き込んでくる。


まるで、何かを探っているように。


急に船が大きく揺れ、体がぐらりと傾いた。


二枚目の次光壁を越えたのだろう。


僕たちの旅は、まだ始まったばかり。

けれど、すでに嵐の予兆は漂っている。


いや……もしかすると、もう嵐のただ中にいるのかもしれない。


僕はそっと、船窓の外に目を向けた。


あの赤い星は、変わらない。

相変わらず孤独に、どこか遠くで、静かに燃え続けていた。

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