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パスファインダー  作者: イガゴヨウ
第二章
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第二十二話

乗船口をくぐると、学校の体育館ほどの広さのアトリウムに出た。

天井は高く、左右の壁はガラスのような素材でできていて、照明が控えめなぶん外の景色がよく見える。

この広い空間のあちこちには大小さまざまな物資が雑然と積まれ、その隙間には二十人か三十人ほどの人々が点々と立っていた。

彼らは皆、手持ち無沙汰な様子でスマホをいじったり、静かに立ち話をしながら時間を潰していた。


ここにいる人のほとんどは女性だ。年齢もさまざまで、中にはシステルと同じくらいの年頃の少女もいくつか混ざっている。

たぶん、彼女たちは第43層か84層の世界に向かう――僕たちの世界に住む魔女たちに違いない。


そんな薄暗い中、僕は乗船口近くの窓際に座り、ぼんやりと外を眺めていた。


あのあと、先生がすぐに戻ってきて、僕たちに向かって言った。


「物資の積み込みが遅れていて、出発は少し遅れるそうです。でも、乗船はできるとのことなので、ひとまず中で待ちましょう」


その言葉通り、僕たちは船内に入ったものの、それきり案内はなく、次にどうすればいいのかも知らされていない。本当にただ待たされている。

もう二十分くらい経つがまだ何の指示もない。


その間、僕はずっとこの窓の近くにいる。


ここは地表から見て、ビルの五、六階分くらいの高さ。下では、コンテナが次々と浮かび上がり、宙をすべってここから斜め下にある貨物室の入口へと吸い込まれていくのが見えた。積み込み作業はまだ続いているけれど、さっきよりもコンテナの数はずいぶん減ってきているのがわかる。


その向こうで、不意に光の球が出現し、ふっと、かき消えると、古びた乗り物が姿を現した。


「わっ、私、あれ見たことある!」


隣にいたシステルが、窓の向こうを指差して叫ぶ。


そこには、魔力を動力としない、いわゆる“旧式”の乗り物がさっき見た時と同じように次々に現れていた。化石燃料やイオン電池を使っていた時代の、僕たちの世界ではもう動かないはずの遺物たち。


けれど、今、魔法が使えなくなった場所へ向かうために、彼らは長い眠りから覚めて動き出している。


その様子を見ながら、僕は思った。


僕たちが暮らすこの世界も、二百五十年前、今まさに第43層世界で起きているような巨大な災厄に襲われたことがある。

当時は、今ほど文明も発達しておらず、危機への備えも十分ではなかった。

結局、他の進んだ世界から助けを借りることになったけれど、それでも多くの命が失われた。


あのとき、僕たちはひとつの教訓を得た。


――出し惜しみはするな。あるものは全部、使え。


それは、他の世界で起きたことでも同じこと。あの様子からは、「持っていけるものは全部持っていく」という気概が、ひしひしと伝わってくる。


そのときだった。ひときわ強い光の球が現れ、それが消えると、見たこともない乗り物が出現した。


……あれは、何だ?


記憶のどこを探っても、あんな形の乗り物は思い当たらない。いや、そもそも、あれは乗り物なのだろうか?


滑らかな流線型のフォルム。色は黒く大きさはコンテナ二つ分といったところか。だが、入口も窓もどこにも見当たらない。どこか、小さくした次光船のようにも見える。


思わず隣のシステルを見上げると、彼女は息を呑むような表情で睨むようにあれを見ていた。


僕はその意外な表情に少し驚きながら、再びあの物体に視線を向けた。よく見ると十人ぐらいの人があれを囲むように立っている。


まるで警護しているみたいだ。


ここからは距離が遠すぎて探知はできない。けれど、どこか……あの人たちは、僕たちの世界の人間とは違う。そんな予感がした。


「システル……」


と言いかけたとき、急に室内の照明が明るくなり、空調が強く回り始めた。


そして、一斉に窓ガラスが色を変える。この虹のように鮮やかに移ろうその変化は、次光壁を越える際に船体を守るための、シールドのテストだ。


いよいよ、この船の出発も近い。


「あなたが、噂の二匹の使い魔を連れた魔女さんね」


不意に背後から声がして振り返ると、白髪まじりの髪をきちんと結い上げた婦人が立っていた。


「本当に……二匹も連れているなんて」


彼女は驚きと、そして抑えきれない感動に、声をわずかに震わせていた。


「……信じられないわ、夢のよう……」


彼女の視線が、僕とニケをゆっくりと往復する。そして感慨深げに、どこか寂し気に言った。


「あなたは……どちらかを選ばなかったのね。羨ましいわ」


彼女の足元には、静かに座る一匹の猫がいた。


魔女にとって、使い魔を選ぶということは、一方を手放すということ。絆が深ければ深いほど、その選択は辛く、痛みを伴う。


彼女の表情には、かつて使い魔を選んだ悲しい記憶が今も深く残っているように僕には見えた。


「選ばなかったというか……気づいたら、なんか、こうなってたっていうか」


システルは少し照れたように答える。


それに、婦人は微かな笑みを見せて言った。


「この子たちを大切にするのよ。絶対に手放しちゃだめ」


それだけ言うと、彼女は静かに背を向け、その猫と共に歩き去っていった。


その直後、システルからメッセージの着信音が聞こえた。


内容を見ることもなく、彼女はすぐに無言で狭い通路の方に向かって歩き出す。


……まただ。


僕はため息をひとつついて、今度こそ彼女を追おうと足を踏み出す。


その瞬間、背後から聞き覚えのある声が飛んできた。


「ねえ、ちょっと」


振り返ると、そこにはニケと、彼女の背後に立つ高等科の三人の魔女がいた。


ニケが、当たり前のように言う。


「上に展望室があるんですって。今からみんなで行ってみようって話になったの。あなたも、来るわよね?」


有無を言わせない口調。その背後の三人も、同じような視線を向けてくる。


僕は迷うように、システルが去った方向を振り返る。


けれど、すぐに息を吐いて気持ちを切り替えると、諦めたようにニケたちの方へ向き直った。


……展望室に行くなんていつ決まった? システルが歩き出してから、まだ一分も経っていないのに。やっぱり、何かおかしい。でも、いったい何が起きてるんだろう?


僕は前を歩くニケの後ろ姿を黙って見つめる。


そして、展望室へと向かう途中、図書室の時と同じようにシステルの魔法の発動を示す微かな感覚が、僕の体に伝わってきた。

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