第二十話
先生の転送魔法から解き放たれ、周囲を包んでいた魔法の光がすっと消えると、すぐにまばゆい人工的な光が目に飛び込んできた。
その強い光に、僕は思わず目を閉じた。少ししてから瞼を開くと、目の前には――美しく輝く巨大な船の姿があった。
あたりには何基もの照明塔が立ち並び、夜にもかかわらず周囲を昼間のように照らしている。
そして、日付が変わろうとしているこの時間にもかかわらず、大勢の人たちが慌ただしく行き交いながら作業を続けていた。
先生は魔法の光が完全に消えるのを確認すると、僕たちのほうを向いて言った。
「乗船できるか聞いてくるから、ここで待っていて」
そう言うと、足早に去っていった。その後ろを、一匹の猫が静かについていく。
僕は、その後ろ姿を黙って見送る。
彼女は、僕たちのクラスの担任だ。そして魔女でもある。第84層の魔女学校の出身で、空間魔法を専門に教えている。
今回、僕たちの引率として一緒に来ることになった。
ただ、先生自身は第84層には行かない。高等科の人たちと一緒に、第43層世界で避難民の支援活動を行う予定らしい。
……そういえば、先生が使い魔と一緒にいるのを見るのは、これが初めてだな。
いま僕たちがいるのは、かつて巨大な貨物船が海を渡り、物資を運んでいた時代に使われていた広大なコンテナ集積場。
現在は使われておらず、時折、何かのイベントがあるときにだけ利用されている。
僕たちが乗っていく、目の前のあの船。
いつもは次光船専用の港で浮遊して接岸しているけれど、ここでは何本ものロープを使って地面に直接係留されていた。
周囲には、支援物資を詰めたコンテナが積み上げられ、魔法や、物資運搬用のドローンによって、次々と船内に運び込まれているのが見える。
その時、大きな影が足元をよぎった。上を見上げると、荷物を抱えたドローンが僕たちの上を通り過ぎ、貨物室の入口に向かっていた。あの次々と物資が運び込まれている次光船の貨物室は、僕たちが使っているマジックバックと同じ魔法の構造だ。だから、見た目よりずっと多くのものを積み込むことができる。
その様子を僕がぼんやりと見ていると、急に楽しそうな笑い声が耳に届いてきた。ふと視線を横に向けると、少し離れた所でシステルとニケがこの一時的に作り出された珍しい光景を、まるで子どものような表情ではしゃぎながら眺めていた。
僕はそれを声もかけずに見つめていた。
――ああして笑ってはいるけれど、彼女たちはきっと、何かを隠している。僕に言っていないことがある。そう感じる。
あのあと、システルはすぐに戻ってきて、まるで何事もなかったかのような顔をして、本を物色し始めた。
それを見た僕はというと、何か話しかけようと何度か彼女に近づいたものの、どこか声をかけづらい雰囲気を感じて途中でやめた。
結局、僕たちはほとんど話すこともなく、一度だけ寄宿舎の食堂で夕食をとるために外へ出た以外はずっとあの地下の図書室で過ごした。
そのあいだ中、僕は頭に引っかかっていた違和感がどうしても拭いきれずにいた。
ときどき、システルやニケの横顔を盗み見て、探知魔法で心を探ろうとしたけれど、何か感じ取ることはなかった。いや――ニケが、僕を見張っているような気がして、探知に集中できなかったというのが正しいか。
そんなこともあって、図書室で読んでいた本の内容なんて半分も頭の中に入ってきていない。
結局、学校で出発を待っていたあいだ、僕は本を読むのを諦めて、昨日の出来事を一つひとつ思い返していた。




