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パスファインダー  作者: イガゴヨウ
第二章
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第十二話

その様子からして、どこからか急いで戻ってきたのだろう。


黒縁の眼鏡に、きっちり編み込まれた三つ編み。制服の襟元も、ぴしりと整えられていて——まさに「学級委員長」を体現したような姿。


彼女は、システルのことを未だに「システィール」と呼ぶ数少ない同級生のひとりで、学業優秀、品行方正。成績は常に学年一位か二位を争い、まるで“生真面目”をそのまま人の形にしたような人物だ。


——僕のご主人様とは、まったくの正反対。


川の向こうにある研究所の所長の娘らしいけれど、いつもひとりでいることが多く、僕はほとんど話したことがない。


そんな彼女が、いかにも「ちょうどよかった」と言いたげな顔で、システルに声をかけた。


「校長先生が、システィールさんに放課後、会議室へ来てほしいそうです」


その言葉を聞いて、僕は思わずシステルの顔を見上げた。


彼女の表情には、なんとも言えない、不思議な気配が漂っていた。


伝え終わると委員長はくるりと背を向け、ドアに手をかけながら、ふと振り返る。


「忘れないでくださいね」


ぴしゃりと念を押し、教室の中へと姿を消した。


「……なんか、やったの?」


僕が尋ねると、システルはむっとした顔で言った。


「何もしてないわよ」


「ほんとに?」


少し間を置いて、彼女はぽつりと呟く。


「……たぶん」


「ふーん」


僕はそれだけ言って、黙り込んだ。


——校長先生が、システルを会議室に? 一体何の用だ?


校長先生がわざわざ呼び出すというのなら、それなりに重要な話に違いない。でも、もしシステルがそんな大ごとをしでかしていたのなら、いつも一緒にいる僕やニケが気づかないはずがない。


横目でニケを見る。彼女も不思議そうに首をかしげている。


——となると、思い当たるのはひとつだけ。


* * *


二週間ほど前、僕たちは学校のボランティア活動で、畑を荒らすスライムの駆除に行った。


学校では、社会奉仕活動に力を入れていて、ボランティアに参加すると単位がもらえる仕組みがある。


システルが参加した理由は、それだった。


第37層世界。僕たちの世界とよく似ているけれど、魔性生物が滅多に出ないせいで、魔法の発展がほとんどなかった世界。


ところが、近ごろになって急に魔性生物が現れるようになり、様々な被害が出始めている。どうやら、今、そういう世界が増えてきているらしい。


農薬は効かず、電気柵も通用しない。


僕たちの世界のように魔法が発達しているところには、駆除する魔法薬や、ドレイン線と呼ばれる魔力を帯びた柵があるのだけれど——急に注文が相次いで、生産が追いつかないという。


だから、僕たちのように魔法が使える人間が、人海戦術で一匹ずつ駆除していくしかなかった。


作業自体は単純だ。僕がスライムを見つけて、システルが魔法で倒す。それだけ。スライム相手なら強力な魔法も必要ない。


地味だけれど、簡単な作業だった。


人手が多かったこともあり、駆除は午前中で終わった。ほとんどの生徒はすぐに帰ってしまったけれど、天気も景色も良かったので、僕たちは少し寄り道していくことにした。


近くの歴史自然公園。川沿いにはサイクリングロードがあり、山にはハイキングコースがある。


僕たちはそのあたりを、のんびりと歩いていた。


「近くに温泉があるらしいよ?」

システルが、冗談っぽく言った。


「入ってく?」


そんな軽口を交わしていた、そのときだった。


——ある感覚が、伝わってきた。


学校の授業で見た標本から受けた、あの独特の気配。


実際に動いている姿は、映像でしか見たことがない。でも、間違いない。


僕はすぐにシステルに伝えた。彼女は最初、信じられないという顔をしていたけれど、僕の真剣さを見て、すぐに察したようだった。


僕たちはハイキングコースを外れ、草をかき分けて林の奥へと進んだ。


身を低くして、音を立てず、気配を消しながら。


やがて視界が開ける。そこで目にしたのは——


信じられない光景だった。


巨大な生き物が、今にも人間の家族を襲おうとしていた。


父親らしき男性が木の棒を手に、必死に立ちはだかっている。母親が小さな子どもを抱え、後ずさるのが見えた。


助けを呼ぶ時間はない。


幸い、あのオーガはこちらに気づいていない。仲間の気配もない。


すぐに判断した。


「システルは魔法の準備を。僕とニケであいつの注意を引いて、あの家族から引き離す」


彼女は頷き、鞄から魔晶石を取り出すと、それを空中に浮かべて詠唱を始めた。


僕とニケは林から飛び出て、オーガの前を駆け回る。


ニケの防御魔法がある。二、三発くらいなら、問題ない。


オーガの巨大な腕がうなりを立てて振るわれる。地面が震え、風圧で僕の髭が揺れた。


そして——


澄んだ声が、辺りに響いた。


——来た!


僕とニケはいっせいに跳び退いた。


直後、六つの炎の塊が林から現れ、回転しながら一直線にオーガめがけて突っ込んでいく。


次々と着弾し、ものすごい爆炎と衝撃が辺りを包んだ。


一瞬でオーガの巨体が炎に包まれ、のたうち回る。耳をつんざくような叫び。


やがて、それも静まり——オーガは動かなくなった。


「……ふう」


僕は肩で息をしながら、家族のほうを見た。三人とも、地面にへたりこんで呆然としている。


気づくと、システルが林から出てきて、燃え尽きたオーガをじっと見つめていた。

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