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パスファインダー  作者: イガゴヨウ
第二章
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第十話

 ようやくシステルが、ふらふらと僕たちのそばまでたどり着いた。

 肩を揺らし、膝に手をついて、今にも崩れそうな前かがみの姿勢で、肩を上下させている。


 「……次からは……はあ……あなたたちも……二本足で走りなさい……」


 ゼエゼエ言いながら、それだけはどうしても言いたかったらしい。

 僕は、またか、と思う。


 僕たちは四本足で歩く猫だ。そんなの無理だって知ってるくせに。

 競争して負けると、毎回似たようなことを言う。負け惜しみも、ここまで来ると様式美だ。


 適当に文句を聞き流していると、ふいに思い出した。

 ――そういえば、午後の最初の授業って、魔法詠唱学の筆記テストじゃなかったか?


 ああ、と僕は内心でつぶやく。

 システルにとっては、一難去ってまた一難ってところだろう。


 それを思い出しただけで、ちょっとだけ、彼女に同情したくなった。


 魔法詠唱学。それは、彼女が最も興味を持って、この学校に入った理由のひとつだったはずだ。

 にもかかわらず、成績はぱっとしない。なぜなら、自分が使いたいと思う魔法しか覚えないからだ。

 座学も得意の実技も、興味の有無で極端にムラがある。


 何度か「興味のない魔法も覚えたほうがいいよ」と言ったけど、まるで聞きゃしない。聞く耳なんて、最初から持ってない。


 そうやって呆れていた時、不意にまた、転移門のほうで閃光が走った。

 ちらりと視線を向けて、すぐに戻す。


 システルは呼吸が少し落ち着いてきたのか、上体を起こし、上を向いて深呼吸を繰り返していた。

 ――まるで、金魚が水面近くで空気を求めて、ぱくぱくしているみたいに。


 なんともみっともない姿だ。とても“うら若き乙女”がやるようなものじゃない。

 僕は思った。この姿、彼女の動画チャンネルの視聴者が見たら、どう思うだろうか。


 「まじょまじょ魔法講座」――確かそんな名前の動画を、彼女は投稿している。

 目的は、お小遣い稼ぎ。毎朝の魔晶石を、その広告収入で賄っているらしい。


 伊達メガネをかけ優等生っぽく装い、僕たちの前では決して見せないような笑顔で、聞いたこともない丁寧な言葉を使い魔法の解説をする。

 中身はまあ、正直大したことはない。けど、若い魔女がやっているというだけで、登録者はそれなりにいる。


 僕は関わっていないが、ニケは撮影から編集、加工まで全部やっている。いや、やらされている。

 一回の配信にかける彼女たちの労力は、相当なものだ。


 ――そんな苦労するくらいなら、朝ちょっと早起きすればいいのに。


 今まで何日、魔法を使わずに登校した?


 かかりつけ医の先生の許可が出て、ようやく登校できたあの日だけか。

 ああ、そうだ、思い出した。長い休み明け、新学期の最初の日。


 「私、今日からは心を入れ替えるわ!」なんて宣言して、その日だけはポータルを使って登校してた。


 でも翌日からは、もう魔法。

 以降は毎日が「緊急事態」


 思い返すと、さっき石段で感じたあの心地よさが、すーっと引いていった。

 代わりに、じわじわと腹の底から、イライラが湧いてくる。


 そこへ、また転移門が光った。


 少し間を置いて、さらにもう一度。


 イラついていた僕は、「うるさいな」とでも言いたげに、そちらをにらんだ。


 ――ん?


 ……あれ?


 昼休みに、こんなに転移門って使われていただろうか?


 今日、何かあったっけ……?


 気づけば、学校全体が少しざわついているような、そんな気がする。


 また、閃光。


 僕は神経を研ぎ澄まし、魔法探知の感度を高めた。


 すぐに、普段、感じない反応が伝わってきた。それに、焦点を集中する。


 ……人だ。数人が転移してきた。魔力を帯びているのは二、三……いや、もう少しいるかも。

 ほかにも、魔力は微弱だが同じく“人”の気配が数名。全員、大人だ。


 危険な気配は、感じられない。


 生徒の家族だろうか。でも、ちょっと人数が多い気がする。面会にしては、妙だ。


 僕は少し気になった。でも、午後の授業が始まる時間が近い。


 まだ少しゼーハーしているシステルに目配せしながら、僕は立ち上がった。

 そして、校舎の中へとゆっくりと歩き出した。

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