表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パスファインダー  作者: イガゴヨウ
第二章
16/80

第七話


「システル」









「……システル!」











「起きなよ」


(むにゃむにゃ……)


「そろそろ起きないと、午後の授業に遅れるよ」


(むにゃ……にゃ……)


何度呼びかけても、テーブルに突っ伏したまま微動だにしない彼女に、僕はついに痺れを切らした。


彼女の耳元に口を近づけて、大きく息を吸い込み――


「起きろ! 起きろ! 起きろーッ!!」


ばっ! と顔を上げた彼女が、むくりと上体を起こし、半開きの目でこちらをじーっとにらんできた。


無言でしばらく凝視。そのあと、顔を近づけては離し、また近づけて……なんだ? 僕の顔を確認しているのか?


そして、ぽつりとつぶやいた。


「……なんで、あんた、ここにいるの?」


その言葉に、僕の目は点になった。


 


* * * 


 


僕の名前はアル。猫だ。そして、魔女の使い魔でもある。


そして、いま寝ぼけて変なことを口走ったあと、すぐにスマホを触り始めているのが、魔女のシステル。僕のご主人様だ。


彼女は魔法学校中等科の2年生。つい先日、14歳になったばかりだ。


本当の名前は“システィール”というのだけど、本人曰く「ぜんっぜん可愛くない」そうで、今では誰もが彼女のことをシステルと呼ぶことになっている。


たぶん、パパとママは「みんなと姉妹のように支え合っていける子になりますように」って願いを込めて、システィールって名前をつけたんだと思うんだけど、当の本人は「私だったら、娘にこんな名前つけない」なんて、二人が悲しむことを平気で言っている。


ちなみに、僕からすれば「システル」もたいして可愛いとは思えないんだけど、本人はわりと気に入っているみたいだ。


きっと彼女の頭の中は、“なんでも短くすれば可愛くなる”で動いているんだろう。


そんな僕たちがいるのは学校の裏手にある小さな丘の上。ぽつんと建つ東屋の中。


かつてはこの丘で魔法薬用の植物が栽培されていたらしいけど、今は旧校舎のそばに最新設備を備えた植物園のような施設ができ、そっちに移ってからはすっかり廃れてしまった場所だ。


周囲はほとんど手入れもされておらず、崩れかけた棚や道具があちこちに転がっている。


ただ、この東屋だけは、誰かがこっそり手入れしているようで、ちゃんと使える状態が保たれていた。


うちのご主人様、つまりシステルは、昼食後にここで休む――いや、昼寝をするのが日課だ。


「……ふわぁ……」


大きなあくびをしたシステルにつられて、僕も思わず口を開きそうになった。が、ぐっとこらえる。


さっき少し寝たとはいえ、まだ眠い。……それもこれも、ぜんぶ、この若き魔女のせいだ。


――昨夜は、ほんっとうに地獄だった。


今日提出の課題を、彼女はまったく手をつけていなかった。


数日前の休日、ゲームに夢中な彼女に僕は聞いた。


「……あの課題、やった?」


すると彼女は、画面から目も離さず、コントローラーを握ったままこう言った。


「やった」


……あれは、嘘だった。


昨夜、寝ようとしたその時になって、突然騒ぎ始めた。


「課題やってない!!!」


そこからが、まさに地獄の始まりだった。


僕が答えだけ教えてしまえば早く終わってしまうのだが、それでは彼女のためにならないと思って、泣き言をこぼす情けないご主人様に根気よく教え続けた。


そして、すべてが終わったのは、東の空がうっすらと白み始めるころだった。


 


* * * 


 


相変わらず彼女は、スマホをいじっている。


あの半分寝ぼけた顔で、画面に映っているものを理解してるとは思えない。たぶん、表示されている時刻にも気づいていない。


僕は、いつ“それ”に気づくか、ただじっと彼女を見つめた。


……これ、もう本能だろ。スマホをいじっていないと死んじゃうとかじゃないのか。


それにしても、いつからこうなっちゃったんだろう。


昔はもっとマシだった。宿題もちゃんとやってたし、夜更かしなんかせず、早く寝て、朝も自分で起きてた。嘘も、そんなに多くつかなかった気がする。


……ああ、あの頃のシステルは、本当に、可愛かったなあ。


そんな昔を思い出して物思いにふけった僕は、ふと彼女に目を向けた。そして、あの頃とのあまりの落差に、思わずため息がこぼれた。


彼女は今、中等科の2年。けど、3年に上がるには……単位が、かなり足りていない。


理由は単純明快。1年の時に取るべき単位の、なんと半分近くを落としているからだ。


システルの学校は、魔法界でもそこそこ名が知れた名門ということもあって厳しい。


2年から3年に上がるとき、単位が足りないと進級ができない。留年という制度もないため、即、放校となり、転校先を探さなければならない。


もちろん、システルにも情状酌量の余地はある。


実は、彼女は健康上の理由で、半年近く入学が遅れてしまっているのだ。


そしてたぶん、その原因は使い魔の僕たちにある。


とはいえ、今は人一倍がんばらないといけないのに、昨夜のような騒ぎである。


課題に追われて夜を明かし、今こうして、スマホいじって寝ぼけてる。


――と、そこへ。


「げっ」という声が聞こえてきた。


ようやくスマホの画面に表示された時刻に気づいたみたいだ。


彼女は勢いよく椅子から立ち上がり、手の甲で口元をごしごし拭う。


……あっ、よだれだ。汚いなあ。


それから、制服のポケットに手を入れ、杖があることを確かめると、バタバタと東屋の出口へ歩き出した。


すぐに僕もテーブルの上からひと跳びで外へ出て、道に着地すると、そのまま早足で校舎を目指した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ