第六話
宙に浮いた魔晶石が強く輝き始め、その光が私の瞳を照らしだす。
周囲の温度がすっと下がり、いくつもの光の球が現れると、静かに円を描くように舞い始めた。
ママが教えてくれた。
——これは、あなたが生まれて初めて使った魔法なのよ。
その時のことは覚えていない。けれど、猫たちを一瞬で彼らのトイレの前に移動させたのだと、ママは言った。
なぜそんなことをしたのかは、自分でもわからない。
でも、これだけははっきり言える。
私はこの魔法が大好きだ。
そして、得意だ。
いつか一人前の魔法使いになったら、この魔法で、すべての次層世界を巡ってみたい。
でも、今は——アルを迎えに行く。
彼がいない今、私ひとりでこの魔法は発動させる。
同じ存在が同時に現れることが許されないこの世界で、瞬時に場所を移動するということは、時を越えるのと同じこと。
時間をかけ、慎重に詠み進める。
私の緊急事態を知った"あの者たち"が、窓の隙間を通って部屋の中に入ってきた。
その気配を感じ、さっと視線を流すと、ふわりと足元から風が舞い上がる。
そして——
その風が連れてきたみたいに、床に淡い光の魔法陣が浮かび上がった。
魔力の少ない私が人並みに魔法を使うための、ずっと小さかったころに見つけたやり方。
魔法学校に入ればすぐに先生に直されそうな、どんな教科書にも載っていない、私だけの方法。
私は辿る。音の響きを、つながりを。
魔晶石は太陽のように輝き、魔法陣は月のように辺りを照らす。
光の粒が視界いっぱいに広がり、魔法の円が静かに回り始めた。
部屋の中には風が起こり、カーテンが波打っている。
ふいに、扉の影からニケが顔を出した。
そのすぐ後ろから——ママも。
部屋の中を一目見て、ママが驚いて声を上げる。
「何をしているの?」
部屋の中は、小さな竜巻のような風が渦巻き、本や紙が宙を舞っている。
カーテンは激しく揺れ、部屋中が魔法の渦に巻き込まれていた。
ママがわずかに手を動かす。
魔法を使うときの、あの独特なそぶり。きっと——デスペルだ。
でも、もう遅い。
もう、これは止められない。
「やめて!」
ママの鋭い声が飛ぶ。
けれど、私は止めない。詠唱を続ける。
この言葉の羅列を作った者が本当に伝えたかったことを、私はなぞっていく。
——あ、危ない!
ニケが跳ねるように、私の魔法陣に飛び込んできた。
……一緒に来る気だ。
その瞬間、今のを待っていたかのように、魔法の球体がふわりと現れ、私をゆっくりと包み込んでいく。
私は詠唱を止め、胸の奥まで空気を吸い込む。
そして、最後の一節を紡ぎ、最後の音を発した。
途端に、体が重くなる感覚が押し寄せてきて、周囲の時間が——ゆっくり、ゆっくりと引き伸ばされていく。
無数の光の粒が視界を満たしていく中、かすかにママの声が聞こえた。
「待って……待ちなさい、システル!」




