城南事件帳 2
『ドクター荒井』
この名前に羽生はピンとこなかった。が、きっと、ムスコさんがピンと反応したであろう。50から上の世代の男性たちは。いまでこそ、硬派な番組のラインナップで売っている六本木テレビ。さかのぼること30年以上前のバブル期。民放各局が率先して踊りほうけ、視聴率競争にしのぎを削った深夜のお色気番組の六本木テレビの売りはなんだったか? 登場するやいなや、その名は当時の、ませた高校生男子たちをもとりこにし、一世を風靡した。ドクター荒井、その男こそが性感マッサージ師の名を世に知らしめた先駆者。その名前におやじさんをなぞらえていることは言うまでもなかった。
説明を聞いて納得した羽生だったが、
「えっ、ってことは、そのご本人でいらっしゃるんですか?」ととんちんかんな間違いをする。
「違うよ」
本人がこの場末の五反田で古本屋など営んでいるはずもない。いったいどこへ行ったのだろうか。きっと、いまでも、世界のどこかで、秘儀を弟子たちに授けているに違いない。
「またの名をね」
「まだあるんですか?」羽生は露骨に、これ以上ないってくらいに、顔をしかめた。もう、うんざりだった。下ネタばかりじゃないか、っていうことももちろんだ。『五反田他人房書店』といい、いま説明を聞いた『ドクター荒井』といい。とくに羽生は、自分自身が身をもって体験させられているからなおのこと、うんざり感満載だった。そりゃあ、自分が彼女を持って、主体的に遊ぶっていうんだったらまた心持ちも変わってくるんだろうけれど、などと生意気にも余裕をかましてみたりしつつ。
「本名・荒井結弦さんだから、『五反田他人房書店の他人房結弦』とも言われてるよ」
あああ、梅宮さんのバカっぱなしに付き合わされて、なんだか疲れたよ。羽生はその疲れを一気に流そうとするかのように、でがらしのお茶をあおった。すると、急にもよおしてきた。光のはやさで小便を済ませた羽生は、これから上司とどういう関係性を築くべきか、真剣に悩む気力も失せつつあった。
(了)
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