城南事件帳 2
さんざん谷渕に気をもたされた刑事たちは内心大いに期待した。これでやっと、日本一のAV制作会社社長兼女性殺害犯をブタ箱に放り込めると。しかし、肝心のブツは、出てこなかった。お尻の穴まで調べたが出てこなかった。代わりに姿を現したのは、一目でさんざん酷使され続けてきたとわかる【四十年もののブランブラン】だけだった。
結局、大山鳴動して鼠一匹、すら捕獲できず。JR山手線五反田駅前の有楽街裏路地、焼き鳥屋の隣に入居する日本最大のAV女優が所属するエロビデオ制作会社「Gタワーズ」社内も、谷渕の自宅も、さらに、都内にいくつも所有しているマンション兼愛人の仮の住居など、すべて同時に家宅捜索が行われたが、パケ一つ、発見されなかったのである。
「どうなってんですかねえ」
「まあ、奴のほうが一枚上手だったってことだろうよ。いつでも準備万端だってことだよ」
「がさ入れに、ですか?」
「ああ、そうだよ」
前々からいろいろ噂はあった。谷渕がお台場にあるテレビ局のディレクターとも懇意なのも周知の事実だった。そのディレクターは、警察の地道な張り込みの甲斐あって、大麻取締法違反で、御用となったから、さあたいへん。写真週刊誌に直撃された谷渕は血相変えて、御付きの者が運転する車に飛び乗ってさっと逃げ去り、それ以後、マスコミ前にしばらく姿を現さない時期があったのだ。
「やつは前々からタレコミがあって、反グレや元プロ野球選手ともつながりがあるといわれている。元プロ野球選手は自宅周辺の麻布十番商店街を夜にパンツ一丁で歩いたりと奇行をたびたびすっぱ抜かれたことがあり、同棲中のハーフモデルとお楽しみの最中に警察に御用になった。現場で使用された覚せい剤の入手経路がどうやら谷渕と同じで、それでマークしてたのに・・」
梅宮は渋面を作って悔しがった。
「ぜったいに、捕まえてやるからな」固く小さく結んだ口元からは、ベテラン刑事の執念が見て取れた。




