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城南事件帳 2

 薄ら笑いをうかべたままの谷渕元気は、


「俺は朝子のことは殺してねえよ」と悪びれもせず、繰り返した。


「東京出入国在留管理局前の車の中で、練炭により死亡している川村朝子が見つかった。たしかに、お前のいうように、お前が直接手を下したわけではないかもしれない」


「それみろ。警察だって、わかってんじゃないか。真実を。俺はやってないんだよ。殺してなんかいないんだ」


「じゃあ、なぜ、練炭とマッチを助手席の足元に用意したんだ? 朝子の死亡時刻から類推して、練炭を買いに行ったとは思えない。思えないどころか、道路沿いの監視カメラを分析したら、そのまままっすぐ、最短距離で、浜松町から湾岸の管理局前まで車を走らせたことがわかっている。つまり、練炭をあらかじめ用意したのは谷渕、お前なんだよ。本当ならお前は彼女を自殺にみせかけて、殺害するはずだったんだ。しかし、マッコイが薬物の取引に応じるとわかって、お前は態度を一変させた。そのほうが金になる。手なずけた女をAVに落とすのはこれまでのお前の常套手段だった。お前が味見をして始めて『体験人数1人だけ、ほぼ処女』のタイトルで売り出していた。これをシリーズ化して結構売り上げを上げ、今のトップの座を築き上げたって話じゃないか。お前にとって川村朝子は、いや、彼女だけじゃない、いままでの、そして、これからのAV女優の予備軍たちも、金儲けの道具でしかない。目的物でしかないんだ。だから、カナダからの大麻を横流しできれば、そっちのほうが割のいい商売と汲んだ。そんなこと、川村朝子はわかってたんだよ。マッコイが浜松町で下車したときに。だから、滋賀から故郷に錦を飾るつもりで上京したけれど、モデルだ映画女優だなんて虚業にほとほと嫌気が差したんだろうよ。助手席の練炭を見たとき、ピンときたんだ。『社長は、本当は私を自殺に見せかけて殺すつもりだったんだ』ってね。それなら、逆に、死んでやる、死んで、その死を持って、復讐してやる。そういう覚悟だったんだよ。川村朝子の最後の気持ちは」


「ねえ、刑事さん。立派なミステリードラマのセリフだったけど、証拠、ないよね。っていうか、俺、結局、なんにも悪いことしてないじゃん。勝手に女が自殺してくれたんだからさ。なんの取り調べの必要、ないんじゃない」


 不良・チンピラらしい人をおちょくった態度で、刑事たちの神経を逆なでしてきたのを間髪を入れず、梅宮は顔面目掛けてストレートをバシッとお見舞いしてやった。殴られた勢いで、後頭部を隣室とのベニヤの壁にぶつけ、鈍い音を立てて、五反田の女衒がひとり、床へと崩れた。



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