城南事件帳 2
「なんなんですか、この部屋は?」
「NTRに決まってんじゃないか! お前さん、単独さんなんだろ、他〇棒なんだろ、時間給、もらってんだろ、五反田書店、通称『五反田他人房書店』のおやじさんから?」
「ははあ、担がれたか・・・ちくしょう!」この期に及んで、やっと悟る。
「なにごそごそ言ってるんですか?」もえが不思議な顔でのぞき込む。
すると、バタンとドアが開いた。
「はい、そこまでだ」先輩刑事の梅宮以下数十名の捜査員が、部屋に乗り込んできたのだ。
「谷渕元気、元モデルの川村朝子が湾岸地区に停車中の車内で死んでいた事件について、事情を聞かせてもらおう。来るよな? 神妙にしやがれ」
鬼平だか必殺シリーズだかの見すぎかよ。そう突っ込みたくなった羽生ではあったが、あまりに真剣な表情の梅宮だったから、そうするわけにもいかず、パジャマ姿のまま、まぬけにもベットの上にちょこんと体育座りしながら、一部始終を観察していた。
隣部屋から引っ張られてきた谷渕はグンゼのパンツ一丁といういでたち。だいたいが日焼けサロンで体が真っ黒、歯は真っ白。おそらく差し歯だろう。そこへ持ってきて真っ白のグンゼのブリーフだから、ある意味、結構さまになっていた。
「ちょっと、なんでこんな恰好で逮捕されなきゃならないんだ」
「逮捕なんかしてない」
「ああ、そうだよ。俺は川村朝子を殺してなんてない」
「殺したとは言ってない。事情を聞かせてくれといっているだけだ」
「俺はなにも悪いことなんかしてないぞ」
「ほんとにそうか」
さんざん悪態をついた谷渕だったが、多勢に無勢、これ以上は無理とわかったのか10分後にはだいぶおとなしくなった。
「じゃあ、教えてやる」梅宮は、ベットが部屋めいっぱいに設置されたがために、文字通り立錐の余地もないなか、そのきつきつの隙間に立ちつつ、羽生とAV女優と谷渕とがベットの上で3人並んで体育座りしている目の前で、語り始めた。
「六本木のバー、ホブゴブリン前の路上で車を止めたお前は、いま2人の日本人女性を殺害した容疑で警視庁本庁で取り調べ中のカナダ人ジョン・マッコイにこう持ちかけたんだ。川村朝子は俺のオンナだった。よくも人のオンナに手を出したな、と。だが、マッコイがカナダから大麻を輸入していることを耳にして、薬をタダ同然の価格でこっちに流すつもりなら、この件、見逃してやってもいい。というより、この女、お前にくれてやったってかまわない、と。マッコイは冗談じゃない、と内心憤慨した。だが、お前の剣幕のすごさに恐れをなし、ひとまず、話に乗ったふりをしたんだ。受け入れた形をとった。それなら、この車、一晩貸してやってもいい、湾岸でもドライブして、そのままホテル代わりに使ってもいいぞ、と。だから、朝子の運転で東京タワーをすぎ、芝公園、増上寺、大門と東へ進み、浜松町駅で下車した。朝子にも興味もなくなったということでだ。たしかに、浜松町駅改札を通過し、山手線に乗車した姿は間違いなく、複数の監視カメラに記録されていた。問題はそのあとだ。朝子はなぜ、湾岸に行ったのか? わかるよな、谷渕なら」
「・・・わかりません」
それなら仕方ねえ、と鼻で笑った梅宮は、
「普通、人はただで自分の車なんて貸さねえんだよ。なにか魂胆があって貸すんだ」
谷渕は白い歯をこれみよがしに見せつけては笑顔で強がってみせる。
「お前、二人の会話の一部始終を聞いてたんだ。運転席の後ろの網ポケットに入れておいたスマホで。お前、いくつ、スマホ持ってるんだ。スマホ代だけで毎月結構かかるだろうに」
ふん、とばかりにせせら笑う日焼け男。
「マッコイが浜松町で下りたことも当然知ってた。心が朝子から離れた証拠だ。お前ってやつは、どこまでも、薄汚い、小汚い、卑劣な男だな。マッコイが消えたから、またぞろ、自分のところに朝子が戻ってきてくれる、元モデルとして出演作で儲けられる、それと、これからあわよくば、車のなかで一発やれる、と」
そっぽを向いて、悪びれることもないAV社長に、
「タクシーを拾って、すぐさまその最中に、朝子の携帯に連絡を入れた。『浜松町駅近くで待ってろ』と。しかし、朝子は同意しなかった。そりゃそうだ。マッコイとさっきまでいい雰囲気だったのに、急に態度を変えて、そっけなく浜松町で下ろしてくれと注文されて、おそらくは、目を合わせることもなく駅へと消えていったに違いないだろうから。それで、お前から機嫌直してよ、と誘われたって、どうして戻るわけなんかないだろう。そんなこと、400人近いAV女優を抱える日本最大の女衒のお前にして、わからないわけないだろうが。女の気持ちが」




