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城南事件帳 2

指定されたホテル「ベル・エポック」は有楽街の北の端に位置する、かなり人気のホテルだ。目抜き通りに面した外壁には、数匹の大きなトカゲのオブジェが夜になると交互に怪しく光り、それはそれはなんとも言えない気分に誘い込まれる。まじめなカップルだったら縮み上がってなんにもできない、なんてことだって・・・ないか。

 部屋に入ると、どうしたわけか、狭い。ベットがきつきつに配置されていて、横を歩こうにも歩けない。なんで、こんな窮屈なつくりなんだろう。もう少し余裕を持たせて設計したってよさそうなもんじゃないか。きっと、経営者がしみったれてんだろうな。少しでも部屋数増やして、回転率あげて、利益を出して、と。てめえの都合しか考えない野郎なんだ、きっと。客たちのことなんかなんにも考えないんだ。

 つらつら手前勝手な理屈を羽生刑事がおつむのなかでこねくり回している間に、一見すると壁だと勘違いするような、下がったブラインドのその奥の部屋では、こちら側と同じようなベットがもう一つ備えられており、その上に、どっかと胡坐をかいた男がいまや遅しと、愛人の登場を待っていた。その男とは、五反田書店の裏でお店を張る日本一のエロビデオ制作会社「Gタワーズ」社長、谷渕元気であることはいうまでもない。


「コンコン」 

 おキツネさんか? ノックの音がした。心臓が縮み上がりそうになった。実は、部屋に入ったその瞬間から、カラダが小刻みに震えていたのだ。この震えは、ホテルの1Fのエレベーター横に備え付けられているドリンクコーナーのホットコーヒーをもってしても、容易に収まるものではなかった。

 落ち着け! いいか、オレは知識はいっぱしだ。これまでさんざん「素人流出物」「清楚系」「お宅訪問シリーズ」さらには「ナンパもの」など仕入れてきたんだ。自信持て! お前は出来る。デキる男だ。いいぞ。やれる。羽生刑事は両手を掴んで捩じって空高く掲げ、その隙間から見える文字を覗いた。

「よし、いける!」

 毎晩、場数を踏んでるはずなんだが、どうも頼りないことこの上ない。やっぱり実地に勝るものはないのか。

「こんにちは。よろしくお願いします」

 廊下から入ってきたのは、DT男たちが大概好む清楚系のなかでも、とびきりの控えめ系のAV女優鈴村まなちゃんだった。

「おおおっ!」

 思わず、お腹の底から、雄たけびが漏れた。やっぱり、羽生もオスであることに変わりはなかった。間違いなく、何回か、いや、何度も、世話になってきた御仁である。思わず、二度見した。本人は、白いふわふわのコートに身をつつんで登場したから、ほんとに、白狐、しろいキツネに見えた。この瞬間、羽生のタマキンがキャッ!と叫んだ。いけえねいけねえ、こりゃ、マジで、女狐だ。油断してると、草でも石でもごちそうにお金に化かして酔わして人をいい気分にさせた挙句、身ぐるみはがされて、寒空の下に文無しで放り出されるだけだぞ。持ち前の、防衛本能が身も心も固くした。

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