城南事件帳 2
「羽生君、最近、彼女、見つけた? どう、そっちの調子」
彼女なんていないのを知っててあえて後輩を突っつく。こういうところが先輩刑事のいけないところだ。だから、後輩だって癇に障るのだ。
「いるわけないじゃないですか! どこにいるんですか、彼女なんて。しかも、いま、城南地域で若い女性が3人も立て続けに殺された事件が発生したというのに、いったい、いつ彼女見つけられるっていうんですか?」
たしかに。連続殺人が品川区を中心とした地域で発生したのだ。羽生が激昂するのも無理はない。被害者3人のうち、2人を殺した犯人は英字新聞ヨコハマ・トリビューンの編集者にしてカナダ人のジョン・マッコイだと判明した。中央区にあるリニア新幹線も手がける大手ゼネコン朝日建設の広報部社員・結城真由子と、秋葉原から五反田の姉妹店に移動になったその日に戸越銀座商店街そばの木賃アパートの自室で殺されたコンカフェ嬢・有働明子を「日本人のくせに白人の俺様に意見するなんて生意気だ」との理不尽な怒りのために殺害したのだ。しかし、もう一人のモデル出身で高輪台のタワマン住まいの川村朝子殺害については、「ワタシ、チガウ」 ここで捜査が行き詰まってしまったのだ。
「いないなら、紹介してあげるよ」
羽生が頭の中で今回の事件を振り返っている最中なのに、先輩刑事の梅宮は、なにやら突然、仕事とは関係ない話をぶち込んできた。なんなんだ、この人。彼女どころじゃないだろう。ほんと、むかつくよ、この上司。腹上死でもしてろ! 今夜もカミさんに稽古つけられて。
「どんなんですか? 相手って?」
強がっては見ても、カラダは言うことを聞かなかったりする。羽生も、頭のなかと下半身とが別々であることに結構悩まされたりするのだ。だから、とりあえず、彼女を紹介するとの話であるなら、藁をもすがる気持ちで、内容だけは確かめてみたいのだった。
「あのね、可愛いよ、とっても。女優さんだから、現役の」
「えっ?!」
女優の一言で、羽生のカラダに一気に稲妻が走った。
「えっ、どうして、梅宮さん、そんなコネがあるんですか? いったい、どこから?」
刑事の習性なのか、とりあえず、根拠を確かめたい羽生だったが、
「いいじゃない、そんな、堅いこというなよ。あっちだけにしといてよ、カタいのはさあ」
「いや、そりゃそうですけど・・ どうして、そういうつてがあるのかなあ、と不思議で」
「いいじゃない、不思議で。クリスマスプレゼントですよ、クリスマスプレゼント。今年も一年お疲れ様でした、との感謝の気持ちを込めて、我らが出来のいい後輩に、彼女をプレゼントしようと言ってるんじゃないですか。素直に受け取ってくださいよ」
さすがに羽生も、直々の先輩からこうまで言われれば拒否するあれもない。
「わかりました。よろしくお願いします」
「それなら話が早い。じゃ、オレが指定するホテルに行ってよ」
「えっ、ホテル? レストランじゃなくて?」
「手っ取り早いほうがいいでしょ、羽生君も。毎晩毎晩、見てるんだから。穴のあくほど」
まっ、それはそうなんだけれども、しかし、いきなりなにもかもすっ飛ばして、ホテルに来いって、いったいどういうお見合い設定なんだ? 羽生は首をかしげつつも、どっかで見たことのある光景だなとキツネにつままれた感じでいっぱいだった。




