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城南事件帳 2

ビックマックセットを買って、それに、大好きなポテトをLサイズに増やしてもらって、階段を2階へ上がった。男ばかりである。オタクばかりである。おそらく、羽生も人からそのように冷ややかな目で見られているに違いない。たいがいは、オレは違う、オレだけはまともな人間だ、ゲームばっかり部屋に籠ってやるような犯罪者予備軍じゃないんだ、と心の中で主張はするのだが、だいたいがこのマックの2階または地下1階で疲れた顔をして食事を取っているというだけで、あっ、こいつ、独りもんだな、彼女いないんだな、どうせ夜な夜なエロ動画のお世話になってるんだな、ということがバレバレなのである。

 しかし、この日は、ちょっと客層が違った。女の子4人組がいたり、就活中らしきリクルートスーツの子がいたり、と。さらに、羽生が腰を掛けた席の、左一つ開けてその左には、メークはしていないようだが、顔立ちが整っているせいだろう、なかなかの美人さんが、やはりひとり、右手でポテトをつまみ、左手でスマホを持って、画面に没入しているふうだった。

 羽生は29年というこれまでの人生の中で、彼女という彼女がいたためしがなかった。これはひとえに、羽生が臆病な、性格であることが大だった。もちろん、他の若い男性同様、性欲は有り余るほどあった。だから、こういってはなんだが、性欲の解消という点においてだけでも、彼女が、いや、女が、いや、女体が欲しかった。それは切実だった。が、いっぽうで、こうも考えた。一人の女を好きになると、当然拘束もされるだろうし、精神的にも束縛されて、自由がなくなってしまうんじゃなかろうか。ヤリたいという気持ちと天秤に掛けた時、どっちが大事かと問われれば、どういうわけか、その点、結構、冷めていた。それに、いくらヤリたいとはいえ、動物じゃないんだから、相手も人間だし、ただ、自分の気持ち優先でいいわきゃないだろう。その点、結構、思いやりがある、ともいえるし、理性的、でもあったのだ。ま、ただ、根底には、自分が一番カワイイ、という超自己中な性格がどっしりと居座っていたのが本当のところだった。

 ただ、とにかく、左の席一つ空けた、1メートルあるかないかの距離にいる、イイ女の定番である髪の長い女で、目鼻立ちがはっきりしていて、仕事柄仕方ないのだろうが、黒のスエット上下姿で、白のスニーカーはちょっと薄汚れていたのは肉体労働だから当然なのかもしれないが、油にまみれた工場のなかに紅一点イイ女がいると思いねえ。

 そんな女が、自分の反対側の椅子にウーバーイーツと書かれた黒の大きなバックをどっかと置いている。声を掛けない手はないだろう。羽生は少なくとも、そう判断した。容疑者に職務質問するよりも、はるかに気分は楽だ。

「あの~、すいません、お食事中」

 すると、女は、ポテトを口にくわえながら、キョトンとした表情で、見返してきた。いったい、なに? この男は、というふうに。ただ、緊張しつつも羽生は冷静に、あっ、いま、男から話掛けられて、わざとウブっぽい顔つくったな、と我田引水的解釈をやってのけた。

 これだから、女にもてないのである。だれも、そんなこと、羽生に対して、思ってないよ。 そうはいいつつも、必死なことには変わりないから、「もしかして、ウーバーイーツのお仕事をされているんですか? いえいえ、私は怪しいもんじゃないんですよ。ただ、あたなのような、華奢な、いや、これは失礼。スレンダーな方がなさるお仕事としては、ちょっと不釣り合いに感じたものですから。男としては」

 すると、女も、羽生の、刑事にしては育ちのいい、人のいいのがにじみ出ている風貌ゆえか、ちょっと安心したのだろう、話ぐらい、付き合ってやってもいいか、とばかりに、

「実は、私、モデルなんです。本業は」と打ち明けてきた。

 今度、びっくりしたのは、羽生のほうだった。へえ~、すごい。モデルさん、ナンパしちゃったよ。よりによって。オレって結構きてるかも。勝手に、モデルが自分のことを好いたように、都合よくストーリーを構成しにかかる若い男。女の方が一枚も二枚も上手なのに、ね。


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