城南事件帳 2
もう一度、ノックをしてみる。それでも反応がない。嫌な予感が走った。もしや、撮影寸前で逃げ出したんじゃあるまいか・・・ よくあるんだよな、こういうことが。せっかくこれまでアメと鞭ならぬ、アメ・アメ・アメの、雨雨降れ降れカアさんがァ~的に頭下げてヤニ下げて珍子上げて、やっとの思いで女の子を口説いてソノ気にさせて、いざ当日となったらドタキャンされることが。
助監督は今、その最悪のケースを頭に描いて、胸がキュッと締めつけられそうになった。危ない危ない。急性心不全で逝っちゃうんじゃないか。そう、危惧した。というのも、この業界、セクハラ・パワハラ当たり前の、いわばヤリタイ放題食べ放題なのだから。とはいえ、いくら社長だからといって食べ過ぎれば牛角よろしく職あたりで即入院なんてことも珍しくない。病気とは切っても切り離せない世界。とにかく。このまま「女の子に逃げられました」じゃ、社長にどんな目にあわされるかわかったもんじゃない。
「入りますよ?」
そう、ドアに向かって声を掛けるが早いか、ドアノブを回し、中へ入った。すると、なにやら、怪しい光が・・・ そうか、この部屋、「保健室」だったんだ。部屋のコンセプトが。いちいち普通の部屋じゃないから疲れるよ、このホテルは。最近、ちょくちょく「ベル・エポック」を仕事で利用するようになり約一年。そう、コロナが終わりに向かいかけた2022年初め、改装オープンした逆さクラゲなのだ。もとは全国チェーンのビジネスホテルだったのだから、どういった経緯なのか、ビジホからラブホに変わった。まあもっとも、そんなところはここに限らない。同じ五反田有楽街にもまだあった。西側に位置する、真向かいがフレッシュネスバーガー、隣がコンビニのローソンのホテルがまさにそうだ。もともと、コロナ前まではビジネスカップルたちの定宿として、例えばNステージ五反田ビルに入居営業するデリヘル店御用達だったのだが、さすがにコロナ禍では商売が成り立たなくなったのだろう。外から初めてこの街に来た人にはまるで、健全な宿泊施設のように振る舞った。それまでの時間貸しの看板は奥の管理人室へでも引っ込めて、「ウチは初めっから普通のお客さんにご利用いただいているんですよ」とでもいわんばかりに、しれっと看板だけ書き換えてパンデミックが猛威を振るった3年の間、商売をしていた。それで、いざ、コロナも終息すると見るや、またぞろ、ラブホへとくら替え。変わり身の早さもさすが水商売だけのことはある。




