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城南事件帳 2

「彼氏がタイホされた。いま、警察にいるんです・・・」

「・・・」

 警官たちはみな一様に互いの顔を見合わせてしまった。ひょっとすると・・・ おそるおそる、通訳兼警察官は、

「どこにいるの? 捕まった警察はどこ?」とたずね、

「だれ? 名前は? 彼氏さんの名前はなんていうの?」別の女性警官も、続く。

当然、プロとしての出世が絡む、アンテナが働く、一気に色めき立って、

「そうそう、ガイジンさんのお名前、まだ、聞いてなかったよね、教えて!」


 いっぽう、千代田区霞が関2―1―1の警視庁本部取調室では、

「くすり、どこで手に入れた?」

「街でガイジンから買った」

「なに言ってんだ? お前。自分だって、ガイジンじゃないか」

 そう、突っ込まれつつ、尋問する捜査官に対して、机一つ隔てて、パイプ椅子に腰縄で括りつけられている編集者ジョン・マッコイ。手錠こそはずしてもらってはいたが、ふてた顔はそのままだった。まあ、そりゃそうだ。山の中腹で、真っ白なケツ出しておつながりしている真っ最中に地元警察にとっ捕まったわけだから。

「街ってどこだ?」

「六本木とか・・」

「とかって、なんだ? ウソつくと承知しねえぞ」

 顔を近づけ目をむいてすごんでみせる捜査官。常日頃、自分と接する日本人は、まるで腫れ物に触るように、臆して、遠慮して、へりくだっているやつらばかり。だから、当然、マッコイもその心地いいぬるま湯にどっぷりと浸かっていたため、尊大な態度を取るようになった。尊大な態度でも周りの日本人は誰一人として文句も、口答えもしてこない。骨のあるやつはひとりもいなかった。なんて、腑抜けなヤツばっかりなんだ、ジャップは。そう、軽べつしつつも、幸いにも東京で仕事を見つけられたがために、占領下の勝戦国気取りの生活を楽しんできたのだ。だから、これまでの滞在期間17年間に経験したことのない、180度変わった捜査官の権力行使の威圧感に、精神が粉砕されてしまっていたと言ってもいい。

 警視庁に移送された後、強制的に尿を採取する際、こともあろうにマッコイは先回りして、ズボンを履いたまま医務室手前でお漏らしをやってのけたのだ。

「お前って野郎は、ほんとどうしようもねえガイジンだよな。てめえで勝手に、放尿ショーしやがってさあ」

 眉間に皺を寄せて、ベテランの捜査員がののしった。とはいうものの、そんな小細工で警察の捜査の手をごまかせるわけもない。練馬区豊島園のマッコイの自宅を家宅捜索した練馬署から、寝室の引き出しの奥からパケに入った大麻が見つかったとの連絡を入った。そのパケに付着していた指紋と、警視庁で採取した指紋とが合致したから、さすがのマッコイも観念かと思いきや、

「友達からもらった。だけど、自分では使ったことない」とこの期に及んで、まだしらを切る。ただ、使用しようが、所持しようが、どちらかの要件に当てはまれば、大麻取締法違反で5年以下の懲役となる(24条の2、24条の3)。ワルの悪あがきといったところか。


 千代田区麹町のヨコハマ・トリビューンにも捜査員が派遣され、上司・同僚に聞き取りを開始した。が、どうも、みな、一様に口が重たい。言いづらそうにしていた。ということはなにか、都合の悪いことを隠しているんだな、と本職たちの勘が働くのは当然のこと。個別に個室で話を聞くだけでは埒があかないなあ、と気分転換にトイレに立った捜査員の一人が、たまたま、大のほうから目をらんらんと輝かせて手洗いへと向かう50年配の白人社員に遭遇したから、たいへんだ。挙動不審と見て取り、所持品検査をすると、案の定、ポケットから注射器が。

「ひょっとして」

 捜査員たちが、マッコイの机を捜索すると、やっぱり、同じように数本の注射器と大麻の入ったパケが見つかった。その旨を警視庁取調室に伝える。さすがに、これ以上言い逃れができないと観念したのか、マッコイは大麻所持を認めた。

「どこで手に入れた?」

「カナダです。トロントの自宅に戻って、地元で。それを旅行用バックの奥底に隠して、日本に持ち込みました」

「大麻はいつからやり始めたんだ?」

「大学生のころからです」


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