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城南事件帳 2

 今やこの街は、日本で巣くうガイジンどもだけでなく、いい意味でも悪い意味でも日本に関心を寄せる地球上のガイジンたちにとって、立ち飲み・路上飲みの聖地として、ネット上で喧伝されているらしかった。交差点を渡り、センター街のなかほどのコンビニ前に来ると、すでに、ガイジンどもの酒盛りが始まっていた。

 心おだやかでないエディングはさっそくコンビニでコロナビールを買っては、小銭で支払った。なんで小銭で支払うのだろう? これだけ電子マネー、スイカ、パスモ、菜々子などが使い勝手がいいし、流行っているし、そのほうが、店員さんも、客側だって待たずにピピっとやれるのに。いまだ、ガイジンたちのなかでも、とくに違法すれすれの、よからぬ気持ちで滞在しつづけているけち臭いガイジンどもは、決してスマートなやり方に変えようとはしなかった。

 求めたコロナビールをさっそく、店の前で一口あおる。だいたい、コロナが下火になって、やっとまともな生活ができる、と日本中、いや、世界中の人々が喜んでいるというのに、なんでこともあろうに、白人たちはコロナビールなんだろうか? その辺のセンスがまったくわからない。なにもコロナじゃなくたって、キリンだ、サッポロだ、アサヒだ、サントリーだ、といろいろ国産のビールがあるじゃないか。しかも、どういう好みだか、女は、和菓子が好きらしい。右手にビール、左手にあんこのおまんじゅう、そ、そ、それを渋谷の路上で、こともあろうに、エビス自身がガブ飲みしてりゃあ、世話ないよ。立派なもんだ。

「ホント、踏んだり蹴ったりよね」(英語にて)

「どうしたの?」同じく先に路上飲みしていた共に初対面の白人男がエディングに尋ねると、

「いや、べつに、大したことじゃないだけど」と前置きしながら、「日本人って、ホント、バカばっかりよね。形式ばっかりっていうか、融通が利かないっていうか」

「ま、なにがあったか、わからないけど、この国は、俺たち西洋諸国とは違うからね。イエローモンキーの国だから」

「ドラッグやったからって、べつにいいじゃない。こうやって、路上でアルコールあおれるような自由さがあんだからさ」

 飲んだそばから愚痴り始めた白人女。酔いが回り始めたのか、その舌鋒は周りにも向き始めた。

「なにさ、あのガキども。日本人の若い女たちって、個性ないんだよね。みんなおんなじ恰好してなきゃ気が済まないんだから。髪型もそう、服装もそう、靴もそう、持ってるものも、みんなそう。それで、メイクもバッチリして。だから、脳に栄養いかないから、バカなんだよ。ホント、バカなヤツばっかり。男もそう。ちんちくりんで、目が細くて。ナニが短くて」

 さすがに脇にビールをラッパ飲みしていたガイジンたちも、最後のあたりになると苦笑しはじめた。

(そう? 日本の男とヤッたことあるの?)

(それって、言いすぎじゃない。目が細いまではわかるけど)

(ナニが短いって、そうかなあ。まあ、日本人は我々白人や他の国の人たちに比べて、体形が小柄だから、あっちも比例して小さくなるだろうことはわかるけどね、くっくっくっ・・・)

 すると、渋谷区のパトロール隊が2人、姿を現して、

「路上飲みは渋谷区の条例で禁止されています。どうか、おやめくださいね」

「一部の方の迷惑行為で、せっかく渋谷区にいらっしゃる方々の安全で快適な秩序が乱されてしまいます。どうか、お控えください」

 制服に身を包んだ二人の若い男性パトロール隊は、そう優しく諭しはじめた。飲んでいるガイジンどもはアルコールで気が大きくなっているはずだ。そんな引火寸前の精神状態に火を着火させてもいいことない、という極めて日本人的な配慮なのである。が、当人たちは、

「いいじゃないか、せっかく、コロナが終息したんだから。他の日本人だって、飲んでるじゃないか」

「そうだよ、私たち外国人だけ取り締まるのは、差別だ。サベツだよ、サベツ!」

「サベツ、サベツ、サベツ、サベツッ!」

 途端に、シュプレヒコールが起こる。サベツ、サベツって、キャベツじゃあるまいし。日本に長いこと住んでいる連中が、このパトロール隊はあくまでも警察じゃない、権限持ってない、だから、何言ったってだいじょぶだと、舐めてかかったのだ。まったく、手に負えないワル者たちである。多勢に無勢で、10人以上いる、なりのでかいガイジンたちに大声を出されたパトロール隊は、せいぜい、両手を突き出して、相手をなだめすかすのに、精一杯の状態。監視カメラでもなければ、下手をすると逆襲に遭いそうな勢いだ。

「なんだよ、この、チビっ、日本人! アルコール、日本だと路上で飲んでいいんだろ! 六本木なんかみんなやってんじゃないか! ふざけんな!」 

 彼氏が留置所に入ってセックスできない腹いせとばかりに、完全に酔いが回ったエディングが吠えると同時に、突っかかっていった。「ファックユー! ファックユー! ファックユー!」

 いくら穏健に振る舞うパトロール隊だからといったって、英語の禁止用語を連発されて、はいそうですか、失礼しました、と引き下がるわけにはいかない。それなら、と渋谷駅前交番に連絡を入れ、本職の方々の応援を仰いだ。


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