城南事件帳 2
警察に届け出ているため、というか、きっと先代、先々代、そのまた先の創始者の心構えが代々立派だったということだろう、これまで一度も、法律に引っ掛かるような、違法な営業はしていない。牢屋にぶち込まれるということもなかった。だから、今日のような飛び込みの客、ましては、ガイジン女がふらっと「お願いします」と言ったところで、慎重に慎重をきさなければならないのだ。
「なんで、今日は、お一人で来られたんですか?」
この問いに対し、白人女は答えに窮して、下を向いてしまった。まあ、たしかに、こんな稼業だから、後ろめたい雰囲気にならないといっては嘘である。ただ、やはり互いの素性がわからないとこの商売は務まらない。答えに窮したとはいえ、答えに窮したふりをするずる賢い輩だってわんさかいる。昨今のジャニーズ会見における、女性芸能リポーターたちのように。なにもかも見聞きしているがゆえに、自らが忖度しているのに、その責任をテレビ局におっかぶせたりするパターンと同じだ。いや、女性芸能リポーターたちだけじゃない。大手メディアの、いい年をした男どもだって同罪だ。
「あなたのお名前は、なんとおっしゃる?」
「ミシェル・エディングです」
「お仕事は?」
「建築家をしています」
ほう、女性建築家か。すごいな。いままでいろんな人がウチを訪ねてきた。政治家、そのなかでも派閥の領袖や大臣経験者。それだけじゃない。テレビのニュース番組や情報番組で、口角泡を飛ばして人気の辛口コメンテーターに学者先生に経済評論家に弁護士に医師に元政治家に元女子アナにフリージャーナリストに作家。しかし、ここに、また新たな一ページが加わった。建築家か。この稼業もずいぶんと知れ渡ったもんだなあ。そんな感慨にふけると、自然とあるじの目頭に熱いものが溢れてきた。
いっぽうのガイジン客は、あるじが急に眼鏡をはずしたと思ったら、白タオルで目の部分を吹き始めたもんだから、あっけにとられてしまった。なんか、ワタシ、へんなこといったかしら? ご主人が急に泣き出すような理不尽なことを口にした覚えもないんだけど。こっちはこっちで、かってに忖度しはじめる始末。しばらくすると、ようやく落ち着いたらしく、
「失礼、失礼。取り乱してしまって・・」己の不手際をわびた。「ところで、もう一度、お聞きしますが、お相手の方は、いまどちらに?」
「ケイサツです」
「・・」
「タイホされました」
「・・」
「なぜまた?」
「公然ワイセツとドラッグです・・」
なんか、どっかで、きいたことがあるような・・・「それって、苗場スキー場の一件ですか? しきりに、ワイドショーで追いかけて、ヘリまでだして新潟から東京霞が関の警視庁まで中継した」
女は黙ってうなづいた。




