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城南事件帳 2

 図書館を出て行くところが 特になかった 羽生は とりあえず 歩いて、JR山手線五反田駅へ。改札を通って、どっちにしようかな?  内回りか外回りか?  いやそれを言うなら、 秋葉原 か 歌舞伎町 新大久保かだろう。 いいや、こないだ、新宿でたちんぼやったし。今日は秋葉原にしよう。というわけで、秋葉原で下車し、中央通りに出た。

 JR高架下の信号をわたって、かつて石丸電気本店があったほうへ進んだ。ケンタッキーが左角にある、中央通りと並行する通りには、待ってましたとばかり、おたく風の気持ち悪いやつらでわんさ状態だ。その裏道の両側に、コスプレ姿の若い女の子たちがビラを配っている。

 よし、例のごとく、ひやかすとするか。羽生は、ここのところ休みになるってぇと、必ずといっていいほど、ひやかしにやってくる。ここならただで女の子とおしゃべりできるからだ。

「おにいさん、コンセプトカフェ、いかがですか?」

 ほら、きた。これですよ、これ。これじゃなきゃ。独身男の週末は。羽生は、つくづく、吉原の遊郭がなくなって久しいことを恨めしくてしかたがない。なんで、ああいう、江戸のころからの素晴らしい文化をどうせ西洋の白人どもが勝手に正義感ぶって上から吠えただけのことに唯々諾々と従って、売春防止法なんて法律を作らなきゃならなかったんだろう。ほんとうに、口惜しい。

 羽生は、そう嘆いた。そうすりゃあ、もし、あの格子が残ってりゃあ、吉原くんだりまででかけていって、日がな一日、なかの女性たちを冷やかして、時を過ごせたのに、とつくづく、江戸時代の男どもをうらやましがった。

 ということで、現代のひやかしを秋葉原に来て楽しむ、というわけ。

「えぅ、なに、これ。いったいなんなの?」まず、一発目はここから入ることにしている。「なんにも知らない/なんにも興味ない作戦」だ。

「おにいさん、コンセプトカフェ、行ったことない?」ゴスロリのような恰好をした10代から20代初めくらいの女の子が聞いてくるから、

「いや、ないなあ」と返す。すると、

「今日は、なにをしに、来たんですか?」と会話が始まる。ここからはいつも同じことを答えることにしていて、

「電化製品を買いに来たんだよね」

「どんなのですか?」

「パソコン」

「へえ、お兄さん、パソコンやるの?」

 いまどき、パソコンやるの? も、ないもんだとは思うが、まあ、そこはご愛敬なのかもしれない。こういっちゃ悪いが、おつむのおあったかい子もいるし、カマトトしてる娘ももちろんいるし、で、まあ、構わない。

「うん、もちろん。今日はね、パソコンの部品を見に来たんだ」真っ赤なウソである。部品なんか見るはずがないのだ。そもそも、メカ音痴なのだから。たしかに、パソコンは持っている。日々利用している。しかし、それは、もっぱら、エロ動画を鑑賞するためにすぎない。世の中はよくしたもので、かつて、性欲のありあまる若い男たちは、近所のちょっと怪しげな本屋で 店主と独特な間合いを取りつつ、それはまるで、時に、宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島の決闘よろしく、しかし こちらは、時として、互いに目を見ることなく、 金だけ払って、分け 知りの店主がさっと品物を紙袋に入れては、黙って受け取り、 弾む 鼓動を抑えつつ、「 おかえり」との母親の優しい問いかけにも「ただいま」と心ここにあらずの返事で、手を洗うと居間に入らずすぐに、二階の自室にまずは落ち着いたりする。そこで、買ってきた、つまりは、肩掛けリュックにしまったブツを初めて白日の下にさらし、いや、もちろん蛍光灯の下ではあるが、もうこのころになると、手は震え、顔は青ざめ、やっとの思いで紙袋から取り出したのは、ほかでもない、さらに、もう一枚、破らないと本編に到達することのできない代物、「ビニ本」だったりなんかしちゃったりするのである。

 


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