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城南事件帳 2

「どうしたの?」「誰、電話の相手?」しきりにマッコイに訊かれたが、「ううん、なんでもないの」とはぐらかし続けた。すると・・

 息せき切って現れた谷渕が止まり木の二人を見つけると、つかつかと歩み寄り、仲睦まじく頬を寄せて話し込んでいたかに映ったマッコイのワイシャツの襟元をひっつかみ、「おい、お前誰だ、このガイジンは」叫ぶが早いか、表に引きずり出した。

「What you doing? (なにする気だ?)」マッコイが抵抗するも、女を横取りされた男の形相は今にも血しぶきが飛びそうな雰囲気をぷんぷん醸し出している。

「てめえ、オレの女になにしてくれてんだよ、オラ!」

「やめて、社長。違う」

「何が違うんだ、言えよ」そう言いつつも、血走った眼でマッコイを睨みつけては襟を上下左右に揺さぶる。その度に、ナンパ師の体は高周期地震動を繰り返す高層ビルのようにしなり、やがて、ぽきっとイキそうだった。

「ヤ・メ・テ」片言の日本語がより一層事の異常さを物語る。裏返った声はまるで間男との現場に踏み込まれた浮気妻のよう。ひきつった顔はそれまでのヤニを下げたナンパ師のそれではなく、ただただ獰猛な天敵に仕留められる寸前のうさぎかモルモットだ。

 さすがに一触即発の危機と悟った酔客たちが次々に彼らの後を追っては店前の歩道上でもみ合う二人を取り囲む。膠着状態がそれでも30分ほど続いたろうか、やっと、谷渕も落ち着いた。

「ちょっと来いよ」襟元から手を放さないまま、六本木通りに路駐してあった白ベンツの助手席めがけ、まるで清掃車に投げ込まれる半透明のごみ袋のように、白人男が投げ捨てられた。朝子は、近づく気持ちも失せて、ただただ、遠巻きに二人の様子を見守るだけだった。

 









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