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城南事件帳 2

 川村朝子は迷っていた。29歳でモデルをこのまま続けていてよいものかと。下からどんどん毎年若くてかわいい子が雨後の筍のごとく湧いてきては自分の居場所を脅かしつつある。いつなんどき、仕事がなくなってもおかしくはない。いっそ、女優に転身しようか。実際、前のモデル事務所をやめて谷渕元気の事務所へ移ったのも、「映画に出てみないか?」と誘われたからだった。が、よくよく調べなかった自分も悪かったのだが、映像とは名ばかりで、GタワーズはAV制作しかしていない。


 初めてネットで「Gタワーズ」と検索をかけた時には、自分の目を疑った。それはそれは可愛い娘たちばかりがゴロゴロ登場しては、笑顔を振りまいているではないか。こんなに競争相手がいっぱいいるの? 正直、いくら勝気な性格の自分でも臆するほどだった。それでも、一呼吸入れて、よくよく観察してみると、みんな顔が同じに見えた。あれっ、この子たちって、整形してるんじゃない? 目もぱっちり二重だし、まつげも男性シェーバーの刃のようだし、鼻はツンと滑り台のようだし、エラもみな同じようにすっきりしてるし、顎はとんがり帽子みたいだし、すべてにわたって人工感が半端ない。


 それよりなにより作品だ。ネットの特異分野の通販で売られているDVDのパッケージ画像を渉猟してみるだけで一目瞭然だった。女優が服を着ているならまだいいほうで、下着それも白だけでなく黒、いや、黒どころか、スケスケの、さらには、わざわざそのブラジャーを自分でたくし上げていたり、前かがみでホルスタイン級の胸を際立たせてピースサインをしていたり、いやいや、それならまだましだ。ここで言葉にするのもはばかられるような、すっぽんぽんもすっぽんぽん、凄十、エディケア、まむしにオットピンを総動員しなけりゃ、文字通り『太刀打ち』できない映像がこれでもか、これでもかと待ち受けているではないか。一般に想像していた映画ではなくアダルトビデオだった。どうりで羽振りがよかったわけだ。


 モデルの友達に誘われて出かけた都内の会員制プール付きレストランで近づいてきた時、谷渕の腕には金時計、首には金のネックレス。それから数時間後のこと、金の竿にはミキモトパールときていたから、元来滋賀県で取れた近江商人の遺伝子を持つ川村朝子は、ほいほいと飛びついた。近江商人の歩いた後にはぺんぺん草も生えないのしわいDNAだから、逆に成金には弱かった。


 ああ、またやっちゃった。朝子は己のドジさ加減に呆れた。



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