城南事件帳 2
「お待たせいたしました。いま、確認を取ったんですが、ちょっと、どうしてウチの車が使われたのか見当もつきません。申し訳ありませんが、これから、お客様もいらっしゃる時間になりますので、どうかお引き取りくださいませ」
よくわからないな。確認とったって、どこに取ったんだ? 納得いかなかったが、とりあえず、風俗ビルを後にした。次は、ホトケの川村朝子の自宅だが、なんと高輪台の高級物件住まいだった。桜田通りを北に約1キロ上った都営地下鉄浅草線高輪台駅の真上にある30階建てのタワーマンションの19F。
「こちらは1LDKの間取りとなっておりまして、主に独り者の入居者様用です」管理事務所の70前後の、白髪頭の男性が部屋を案内してくれた。
モデルの部屋というから野郎ふたりはそうでなくとも期待していた。きっと、部屋に足を踏み入れた瞬間から夢見心地になるにちがいないと。しかし・・・
玄関ドアを開けた目の前にあるのは、靴、靴、靴の靴の山。おまえはイメルダ・マルコス元フィリピン大統領夫人か! そう、罵倒したくなるほど足の踏み場もない。ハイヒールだ、ブーツだ、サンダルだ、革靴だ、スニーカーだと、お店開けるんじゃないの、と言いたくなるほどバラエティーに富んでいた。当然のことながら、リビングへとまっすぐ伸びる廊下も、ブランドのロゴが描かれたこれみよがしに大きな白い紙袋がいくつも放置されている。おそらくは、ハンドバックや服などが入っているのだろう。そうかと思えば、写真の飾られた小さな額が所狭しと壁を覆いつくしている。画廊か?ここは。これじゃ気分も落ち着かなくなるだろう。
「こりゃあ、部屋のなかも、相当期待できそうだね」
「そうですね」
リビングへのドアを開けると、たしかに、期待通りの散らかり具合だった。が、目線を上にしていればその嫌悪感も打ち消すことが可能なほどに魅力的なけしきがあった。なるほど、台地にあるだけあってすばらしい。東京湾まで見通せる解放感と眺望が。
それだけじゃない。銀座日本橋まで地下鉄で一本でいける便の良さ。それと、見栄っ張りなら、世田谷・杉並を通り越して、一気に港区の高輪にグレードがアップするのだから、たまらないだろう。成金の大好物といっていい。などを考慮して、家賃19万4千円、管理費・共益費15000円を払う財力があるか、が最大の問題だ。それを軽々? か、かつかつなのか? は不明だが、少なくとも、29歳という若い女性が支払って生活していたのだから、それはそれですごい。
モデルってそんなにいい商売なのか? そんなにいい給料もらうのか?都心の最高に高い賃貸物件で生活できるのか? 石川啄木じゃないけれど、働けど働けど自分のくらしはこんな高みには到達できそうもないなあと、二人はぢつと手を見た。
「彼女について、なにか見知っていることはありますか?」そう聞かれても管理人は首を横に振るだけだった。「220戸の方々がいらっしゃいますから」
そりゃそうだ。それなら、となにか手がかりがないか、リビングダイニング、さらには、寝室を手分けして探すことに。
「じゃあ、私はリビングのほうをやるから、羽生君、悪いけど、ベットルームお願いしていいかな」
「ええ、喜んで」地獄に仏、渡りに船、とばかりにいそいそと襖を開ける羽生。
汚部屋。テレビの2時間ものやバラエティーで出てくる感じそのままだった。が、そんなことにめげてはいられない。勇気をふり絞って、梅宮はテーブルの上のカップラーメンの食べ終わった容器やビールの飲み干した缶をそぉっとどけて、埋もれかけていたパソコンの蓋を開いてみた。すると、そういうずぼらな性格ゆえか、パスワードもかけておらず、そのままメールも覗ける状態。それなら、と、チェックすると、なにやら怪しい内容が・・・




