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城南事件帳 2

「法人契約? 個人じゃなくて?」

「ええ、法人様です。近所の」受付の男性職員が真顔で答える。

「どちらですか?」

「五反田Nステージビルの2Fに入居している会社様です」


 五反田Nステージビルとは知る人ぞ知る、有楽街の北の端にある赤レンガの「風俗ビル」だった。何がすごいって、上から下まで、風俗のオンパレード。すべてはあっち関係でまとまっていることだ。1Fには営業していないんじゃないかっていうかんじで、ネオンなどまったく光っていないピンクサロン。おそらくは、何度となく手入れを喰らっては手をかえ品を変え生き残っているものと思われる。よって、たまに客らしきうつむき加減の男性が自動ドアを開いてはさっと姿をくらますのを通りで見かけると、まったく店内照明は漏れていないようだけど、もぐりチックで営業してるのね、と合点がいく。地下1Fと地上2Fから4Fまではデリヘルの事務所、5Fはレンタルルーム、そこから上は・・わかりません。誰か興味のある方は、おひとりでどうぞ。生きて帰れるかは、まったく保障できませんのであしからず。

 Nステージビルに出張った二人。2Fだから階段でとエレベーター手前の階段を3段上がる。すると、ここも、さっきのAV制作会社同様に、こねくり回した構造。直角に左に7段。グルっと左に180回転し、やはり7段、と一段一段の勾配がきついのなんのって。なんで、この一角のビルのつくりって、みんなこうなの? いや、みんなといっては語弊があるが・・

 事務所の入り口上にはガラスのしきりのようなものがあり、そこに複数店舗の名前が。8つほどだろうか。「ずいぶん、掛け持ちしてるんですね、こういう事務所って」と羽生が漏らすと、

「看板に偽りあり、だよね。ネットで、女の子が何千人在籍していますってさもよりどりみどりみたいに景気イイように謳ってるけど、他の店舗の女の子、たとえば、ピンサロの子なんかを掛け持ちで仕事させてるみたいだよ」

「そうなんですか? やるこたぁ、いいかげんだなあ」

「そんなもんですよ」

 なかに入ると、限りなく半グレの親戚みたいな兄ちゃんが、「いらっしゃいませ、お二人さまですか」

 事情を説明すると、「ええ、たしかに、うちですね。うちで契約している白のベンツになります」

 なります、って言われても。それしか、回答ないの? 人が亡くなっているのに? 日本語の使い方知ってんのかね、と呆れ気味の刑事たちに、

「この女性は、ウチの従業員ではありませんね。面接した記憶も採用した記憶もありません」

「じゃあ、なんで、彼女はお宅の契約した車に乗ってたの? 説明になってないじゃない」梅宮が突っ込むと、さすがに自分でもおかしいとおもったのか、少々おまちください、と男は奥へ引っ込んだ。

 この事務所、前はバーの居抜き物件だったのか、馬蹄形のカウンターの内側と外側とで野郎同士がやりとりするシステムのようだ。「この子いかがですか?」と写真ファイルを開いて勧めてみても、「いやいや、こっちの、このアイドル顔した子のほうが、オレは好みだね」とサラリーマン風の客が指名してみせると、今度は「残念。お客さん、この子、今日、女の子の日なんですよ。よろしかったら、この子なんてどうですか?」などと別なほうに誘導したりなんかして、「じゃあ、この子で」などと人が良く前金を払ったが最後、5Fのレンタルルームなどに現れたのは、似ても似つかぬおブスのおデブちゃんで、「ぜんぜん、写真と違うじゃないか!」と息巻いても、もう後の祭り。結局、パネマジだったなんてことはよくある・・らしいゾ。

 ちなみに、パネマジとはパネルマジックの略語で、パソコン上で、加工ソフトを使ったりなどして、女の子を別人に仕上げて見せることをいう。この技術に、これまで何千何万何十万という男性客が涙をのんできたことか・・・トホホ。


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