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城南事件帳 2

「それにしても、モデルというだけあって、たしかに、なかなかエキゾチック美人だよね」席に戻った恵係長がそのご尊顔に違わず相変わらずの無駄口を叩くと、待ってましたとばかりに、今度は梅宮が自分のパソコンの画面で彼女の画像を探しつつ、

「たしかに。なかなか、イイ女ですね」と相づちを打つ。

 人がひとり、亡くなっているというのに、まったく。こんなこと、表には出せない。出したら非難GOGOだろう。なにやってんだ、大崎署の刑事どもは、と。そうお腹の中でうんざりしつつも、羽生は、いま、もし、本当のことを打ち明けたら、このおじさんたち、どうなっちゃうんだろう、とちょっと心配になってきた。

「ところで、話ってなにさ、羽生君」恵氏が例のうすっぺらなかんじで突っつくものだから、

「いや、実は・・」

「まさか、知り合いとかいうんじゃないよね」こういうことだけには、ヘンに目ざといのが係長なのだ。

「えぇっと、実は、そういう方向なんです・・よ」

「えっ?」上司二人は同時にびっくらこいた。

「どうして??」ここも同時だった。

 すると、梅宮は部下として、「どうぞどうぞ」と右手を差し出しながら、謙譲のポーズを示すと、負けず劣らず係長のほうも「 どうぞどうぞ」。どっかでみたことのありそうな光景が繰り広げられた。

「いや、どうぞ 係長からお先に」

「 いや 、いいよいいよ。 どうぞ、梅宮さんから」

 そうなると見ていられなくなるのは 羽生だった。

「 じゃあ私が」 と名乗りをあげると、

「何で君なんだ!」

「 質問するのはこっちだろう!」

  内容 こそ違ったが コントのオチにはならなかった。要は2人は 経緯を聞きたかったのである。話を詳細に 述べざるを得なかった。


「その後は、デートしたの?」

「やったの? 最後まで」

 おっさん二人のゲスな質問が矢のように飛ぶ。

「ですから、いま説明したように、 むこうから黙って帰っちゃったんですよ。まったく、相手にされなかったということです」

 なんか釈然としないというのが二人の表情から十二分に伝わってきた。かりに、羽生がこのモデルに渡りをつけたとして、妻子持ちの二人がどうするわけでもないだろうに・・ まったく、どこまで所帯持ちってやつらは、図々しいもんなのか・・ DT刑事は唾棄したい気分だった。


 品川ふ頭に移動した二人は、黄色い規制線をくぐって近づいた。なるほど、車は、東京出入国在留管理局の真ん前の路上に停車してあった。

「白いベンツかあ。金あるんだなあ」

「わからないよ、事務所の持ち物ってこともあるだろうしね」 

 ホトケはすでに遺体解剖のため、東京湾岸警察署に移送された後だったが、練炭は助手席の足元に残っていた。場所が場所だけに、野次馬のほとんどは、手続きに来た外国人ばかりだった。車内には、梅宮の見立てどおりといっていいのか、芸能事務所の名刺入れが見つかった。

「やっぱり」オレの勘はたいしたもんだ、と鼻の穴を広げる梅宮は、「行こうか」と後輩を促した。よくよく、車のナンバーも確認せずに。


 なんと、事務所は大崎署と目と鼻の先にあったのである。五反田有楽街の裏の細い路地に面した立ち飲み屋の隣のビルの2Fに入居していた。

「なんだ、ここだったんですね。ここなら、わざわざ品川ふ頭まで臨場する必要もなかったかも」

「そんなことないさ。どういう場所で、ホトケさんが亡くなっていたのかを肌感覚で知るのと知らないのとでは、後々大きな差になって現れるはずだ。無駄じゃなかったんだよ。現に、野次馬たちが外国人ばっかりだってことも、ある意味、びっくりしたことじゃないか」

 たしかにその通りなのだが、若き刑事ががっかりしたのは、「映画にも出たことあるんです」と自慢していた川村が所属していた事務所が、なんのことはない、大崎警察署管轄の大手AVプロダクション「Gタワーズ」だったことである。

 「Gタワーズ」は、知る人ぞ知るAV専門の芸能事務所で、世の男性ならば世話になった女優の数は両手の指では到底収まりきらないはずである。「朝比奈」「天海」「神崎」「桜空」「仲村」「七ツ森」「新山」「冬月」「松本」などなど、すでに移籍した者も含めると、かなりの大所帯である。

 「へへ、役得、役得」と事あるごとにパトロールと称してはお世話になった女優に会えないかな、と下心満載で日参しつづけたのに、ついぞ、拝んだことがなかったのだ。それなのに、まさか、自分が少しは関わった女性がホトケとして上がってくるとは、と羽生は運命の不幸に少々参ってしまった。


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