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城南事件帳 2

 いつのまにか、刑事課は2人をのぞいてすべて出払ってしまった。

「まずいな。われわれも行くとするか。ねっ」と羽生の左の二の腕をポンと叩いて、 立ち上がった。いっぽうの若いのは、依然として椅子にしがみついているではないか。

「どうした、行くよ」促すも、なにか言い残したことがありそうな表情の後輩刑事。

「なんなの? なにか、目星でもついてんの? だったら聞くよ?」

 そう察しをつけてくれたのをよしとしたのか、羽生は、

「もう少し、ゆっくりしませんか?」そう、のたまった。

 朝っぱらから、ゆっくりしませんか、もないだろう。ここは先輩として、ビシッとお説教してやらねばなるまい。若者に迎合するかのごとき、一見「ものわかりのいい」大人ばかりが重宝される昨今ではあるが、組織人としての心得は心得として必要なのだ。よって、先輩カミさん子持ち刑事は、一言、

「早くしないと、犯人逃げちゃうよ」 

 それに対して、

「いや、まだ、 少しぐらい大丈夫ですよ」と余裕のよっちゃんを決め込んだ。

 仕方なく、再び席につくと、なんでも、見てもらいたい、聞いてもらいたい事柄があるという。

「梅宮さん、自宅で、動画とか、見ます?」

「なに、やぶから棒に。見るよ、そりゃあ、もちろん。ただ、ウチはパソコン一つで、家族共有だからね。居間のテーブルに置いてあるんだ。だから、あたりさわりのない、言うなれば、eテレ的な、NHKの7時のニュース的なものしか見ないけどね」

 それを聞いて、なんだかがっかり肩を落とす羽生。じゃ、オレが知りたいこと、聞きたいことも、このおじさん、知らないんだろうなあ、と内心そんな風に落胆したようである。

「いや、じつは、メンズエステについて、お聞きしたかったんですよ」

「メンエスのこと?」

 なんだ、知ってんじゃないか。がっかりして損した、と思うと同時に、それなら話 もできるかなと少し期待もわいてきた。

「ええ、そのね、メンエスの動画なんですけど、なんだか、今度のホトケさんに似た感じの女性が出演してるんですよ」

「えっ・・そうなの? どこ? どれ? みせて、みせて」急に乗り気になる梅宮に、

「ちょっと待ってください。その前に、メンエスって、いったい、どういうお店なんでしょうか?」

 この期におよんで、どうしてこういうことを質問するのか意図がわからない。ともいえるし、いやいや、よ~くわかる、とも捉えることは可能だ。つまり、羽生は、「大人の会話」を楽しんでいる。いうなれば、一度食べたものを戻して食べるウシやヒツジと同じ、反芻動物ということだ。

「なにがいいたいの? 朝っぱらか、ここで、エロ話をしてる時間がないことくらい、君だってわかってるよね」さすがに梅宮も半分呆れ気味だ。

「いや、そうではなくて」と誤解を解こうと必死の態を作るも、内実、梅宮さえよければ、ばかっ話でもして一服してから外に出たいと企んでいたのはまぎれもない羽生の本心だったのだ。よって、その工程を仕方なく端折ることにして、言うなれば本題にいきなり突っ込んだ。

「ホトケの太ももと首筋のほくろの位置が、ネット上の『無料エロ動画Xシリーズ』に出てくる白いムチムチぱっつんぱっつんシャツのエステ嬢のほくろの位置とが、どういうわけか、一致してるようなんですよ」

 おいおい、AVソムリエか?


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