城南事件帳 2
「もう一回、第三の男、つまりは、他人〇になってもらう、ということで」
「ちょっと、待ってくださいよ。そりゃないよ。こないだだって、梅宮刑事が女の子紹介してやるっていうから、それなら、って部屋入ったら、いきなり女性のほうから襲われて、あれよあれよという間に、壁のブラインドが急に光が入ったな、と思ったら隣の部屋が見えて、不動産屋のおやじさんがこっちの様子を腕組みして椅子に胡坐かいて見てたんですから」
「聞きましたよ、梅宮刑事から、その話は。大変でしたね」とねぎらいの言葉をかけるあるじではあったが、実際の表情は、懸命に笑いをかみ殺しているのだから、犠牲者はたまらない。
「とにかく、もう結構です。私はあんなみっともない、屈辱的な仕事は金輪際したくありません。なんで、刑事が、他人〇の身代わりにならなきゃならないんですか、まったく。わけがわからない」
「そうですか、それは残念ですね。それでは、ご希望に叶う方向にはいけませんね」
ほんとに、もう。どいつもこいつも。結果的には、五反田の不動産王が依頼した他人〇を梅宮の差し金で、部下の羽生にやらせたのだ。それで、古本屋のあるじはしっかり口利き料を懐に入れた。当然のことながら、なんの領収書も出さない金だから、従って、税金もかからない。おそらく、闇仕事だから、うん十万円はくだらないはずである。客はなんていったって、五反田の不動産王と言われた金社長だったから、当然、あるじだって、特別価格として結構上乗せしたはずなのだ。それをまた、羽生を使って、ただでぼろもうけしてやろうというのだから、結構あるじもあこぎである。そんなことをつらつら思い返したのか、あるじは、
「わかりました。前回のこともありますから、お教えします。ある程度はね」
ふん、当たり前じゃないか、と言わんばかりに、羽生は鼻を鳴らして、次の言葉を待った。
「朝のニュース情報番組、あるでしょう、8時からの。民放でいくつかやってますよね。そのうちの、一番視聴率がいい『羽毛新次郎ニュースショー』のなかで活躍している男性のアナウンサーは、実際のこちらに登録してますよ。『五反田書店の助っ人リスト』の中にね」
「えっ!? あの、朝の時間帯でダントツの視聴率の『羽毛ショー』の羽毛新次郎がですか」
「違いますよ、羽生さん。落ち着いて。よく、人の話を聞いてくださいよ。私が言ったのは、『羽毛新次郎ニュースショー』のなかで活躍している男性のアナウンサー、ですよ。羽毛さんじゃない。あの方が、そんなことしてたら、番組おかしくなっちゃうでしょ。もたないですよ、2時間。いくらタフだって。あの方、たしか、高校野球で甲子園の予選で決勝まで行ったんですよね、ピッチャーで。惜しくも決勝戦で優勝候補に敗れて、それで、いま人気司会者なんですから、なにやらせても凄い人ってのはいるもんですね」
「で、肝心な男性アナって?」
「森和夫アナですよ、中堅どころの。あの方、持ちモノがいいの。なんでもプロフィールでは、21センチって書いてあるんですよ。これはあくまで自称ですけどね」
「21センチ? それって、イチモツってことですよね」
「もちろん」
「えっ・・」絶句してしまった。日本人で有名なのはなんといっても、道鏡禅師である。彼は、一説によれば、現代の計測法によれば、30センチあったとも、言われているらしい。実際、江戸の川柳でも、『道鏡は座ると膝がみっつでき』などが残っているし、それはそれは立派な方だったのだろうとお見受けする。さすがに、そこまでではないが、かの六本木テレビの、森和夫アナが21センチならば、会社帰りまたは暇な週末などに、カミさん子供の世話をほっぽっておいてもなお、五反田でバイトに励みたい、という気になるのも、同じ同性ならばわからなくはない。
「へえ、それはそれは。知らなかったなあ。あの、9時すぎ、時として9時10分とかに特集で出てきて、ボードの前で説明したりする、いまちょうど40の声を聞くくらいの、まさに働き盛りの方ですね、森アナって」
「そうですよ、まさに、働き盛りです。だから、六本木テレビとウチとで、掛け持ちできるんですよ、仕事が。あの会社、先見の明があるから、副業も認めてますしね。もちろん、こっちは、たとえ、会社側から『ウチの森、そちらでヘンなバイトしてませんよね』と仮に探りを入れられたとしても、もちろん、『いえ、人違いではありませんか』と否定しますよ」
ちょっと、その断り方って、ビミョーじゃない? 人違いっていう前にさ、まず、森アナのような容姿の方はウチでは雇っていません、とか、そういうきっぱりとした断り方をするべきなんじゃないの? もし、本当に、本人を守ろうとするなら。そうじゃなくて、たんに、先方の意向を受け入れたようなふうで、人違いじゃありませんか、って返すんだったら、まるで、似た人間を受け入れてますって、認めてるようなもんじゃないの。おかしいよ、そんなの。あるじの言葉をそうやって分析してみると、なんだか、オレ、大丈夫かな、と不安を覚えてくる羽生刑事であった。少なくとも、一回、ただ働きさせられてるからなあ。油断も隙もあったもんじゃないよ。それと、上司の梅宮さんも。しかし、六本木テレビの40前後のアナウンサーが21センチとは驚きだ。そんなにすごいものをぶら下げて、毎日、生放送やってるんだ。ある意味、男として、尊敬するね。だいたいが、重いだろうしね。




