城南事件帳 2
まだ朝の9時ちょっとすぎである。今日も仕事がないのか。 ここのところ大崎署圏内はヒマである。 先日、 五反田有楽街の 北の端のラブホ「ベル・エポック」で、ちょっとした事件があった。新聞、ラジオ、テレビ、ネットでも大きく取り上げられて、ご存じの方も多いとは思うが、 30代 若手財務官僚が ベッドの上で ヒ素系の毒をあおって殺されていたのだ。その犯人を捕まえるのにひと役もふた役も買ったのが誰あろう羽生大也刑事弱冠二十九歳DTなのであった。
「ベル・エポック」は 改装したばかりのホテルで、もともとは普通のビジネスホテルチェーンの五反田支店にすぎなかった。が、どういう事情があったのか 、詳しいところはさだかではないが、外側にかけられた工事用の幌が取り除かれると、そこにお目見えしたのは、通りに面した壁面に気味の悪いとかげのオブジェがいくつも這いつくばって、それが夜になると順番に明るくなったり暗くなったりと、一見してそれとわかるホテルに生まれ変わっていたのだ。
そうなると当然、室内の内装も普通ではなくなる。ここは、合計五十室のひとつひとつがコンセプトが異なると謳っている通り、エロビデオでおなじみのガラス張り、外からは見えないけれど、内側からは外の人たちがわかる、という非常にスリリングな雰囲気を味わえる部屋を始めとして、電車のつり革のついた車両、社長室、吉原遊郭、診療所、エステサロン、時代劇のお殿様の部屋、などなど、かの直木賞作家もびっくり、個人撮影にもってこいのシチュエーションが盛りだくさんである。そのうちの<NTR部屋>で、彼はおとりとなり、俗にいう他人〇となって、勇猛果敢に体を張って臨み、逮捕にこぎつけたのだ。
が、その時、ベッドの上で女落語家と 疑似恋人以上 変態 未満 の行為を行うにあたり、 女の色香と体とに触れた。それが 羽生にとって運の突き、いや、運の尽き、だった。