城南事件帳 2
「ええ、やってますよ」それまでの、ちょっと高めのテンションと打って変わって、凄みの利いた顔つきでうなずくと、「これは、あくまでも、信頼のおける、信頼というのは、秘密を守っていただける、という意味で、ですけどね。そういう互いの絆のようなものが構築された暁には、人を紹介する、という仕事をさせていただいてます」じっくりと、自分自身に対して、噛んで含めるように説明したのだ。
「私も男です。刑事という仕事を生業として、大崎署に勤めています。ここ、五反田有楽街は目と鼻の先ですし、実際、事件が起こるとすれば、ここの特殊街区がほとんどといっていい。この店の裏側には、最大級のAVプロダクションもありますしね」
「・・」あるじは黙って聞いていた。
そうなのだ。同じ街区には、今を時めくAV女優たちが名を連ねるT-POWERSも法人登記されていた。焼き鳥屋の隣のビルの3階である。
Wikiペディア情報でまことに恐縮だが、このT-POWERSには、かつて13億を誇る総人口を持つ中国の男性たちを骨抜きにしたといわれる伝説の女優「小澤マリア」を始めとして神咲詩織、新山沙弥、松本メイなどなど、なんだかんだしかつめらしい顔をして、仕事場で、会議室で、飲み屋で説教しようが何しようが、男なら所帯持ち独身問わず、一度ならず、世話になった女優がゴロゴロ在籍している。本来ならば、盆暮れに菓子折りのひとつも持って「お世話になりました」と頭を下げに行かなければいけないのに、世の中、義理を欠いて、それでいて、平気で金を出さずに無料でネット動画で済ませようとしている不届き者の、一見するとジェントルマン、一皮むくとたんなるむっつりスケベが、今の日本には多すぎる。いや、最近のグローバルなネット環境により、欧米も、イスラム諸国も、アフリカも、さらに、東南アジアの男たちもだ。一説によると、東南アジアの男どもなどは、この動画によって日本語を覚えたという輩もいるそうじゃないか。それなら勉強代として、おみやの一つもぶらさげて、五反田の裏路地に位置するこの芸能事務所を探して、挨拶にくるべきなのである。
ちょっと待てよ。Wikiペディアを渉猟していると、なにやらおかしな情報まで出てきたぞ。六本木で商売してるテレビ局も、この事務所と関係があるだと? 番組を一緒に作ったことがあるだと? しかも最近。ネットの番組で。2021年末から配信してるだと? なんだそれ。ってことは、そいつらも、相当いい思いした奴らがいるってことか? オリンピックの閉会式が終わった夜も、六本木のすし屋で大騒ぎしたとか写真週刊誌のネット記事で暴露されていたが、それも、絶対、この六本木テレビだろ。どう考えたって。なんか、腑に落ちねえよなあ。
などと腹の中で愚痴りつつも、コロナ禍でマスクを常時着用する生活ゆえか、刑事課に赴任してからというもの、羽生はことさらに注意してこの古本屋の反対側を歩くのだが、一度たりとも、見知ったことのあるAV女優にはお目にかかったことがなかった。世間で言うところの「役得」、つまりは、AV女優の姿を拝めることに、ついぞ、巡り合うことのない現在なのであった。
「最近、ここ数年でしょうか? 世の中に、非常におかしな性癖が暴露されましたよね?」
「・・」あるじはあくまで聞き役に徹していた。どこまで話すのかどこまでこの若造刑事が知っているのかをまるで試すがごとくに。
「NTR。私も知ってますよ。男ですから」羽生は、きっぱり言い切った。ここから本題ですよ、と言わんばかりに。




